吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ソウルステーション/パンデミック

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 韓国のアニメは初めて見た。そして、これは怖い。特にラストのどんでん返しが怖い。
 ヒットしていた実写「新感染」はとうとう見逃してしまったが、このアニメがその前日譚というので興味をそそられた。舞台は深夜のソウル駅。一人のホームレス老人から感染が始まり、あっという間に大量の罹患者が生まれるという設定で、感染者はゾンビになって人を襲うといういつものパターン。
 駅が舞台なので、線路上を逃げまどったり、シャッターをこじ開けたりといろいろ仕掛けがあって恐怖と緊張がそそられる。
 主な登場人物は3人で、一人がヒロインの元風俗嬢ヘスン。ヘスンはゾンビに追いかけられてなんとかソウル駅から脱出しようと逃げまどう。まだ若いからかなり体力があり、必死に走る姿がけなげだ。そしてヘスンと別れ別れになってしまった恋人キウンは、偶然にもヘスンの父親と出会って、二人でヘスンを救出しようと試みる。 
 この作品は日本アニメのような高画質ではなく、さらに時々画面が微妙に揺れたり残影が出たりするのが気になるところだが、ストーリーはよくできていて、最後まで惹きつけられた。とりわけ日本以上の格差社会への批判的まなざしが印象深く、ゾンビに襲われる人たちがホームレスだというところにこの映画の見どころがある。情け容赦なく弱者が犠牲になっていく様は恐ろしい。ヘスンが、父と恋人と携帯電話だけでつながりながら必死に逃げまどうさまは手に汗握る。しかもこの恋人というのが曲者で、実はヘスンを出会い系サイトで売春させようと企んでいた悪い男なのだ。とことん可哀そうなヘスンが、家出娘であり、社会の底辺へと落ちて行った女性であることがさらに救われなさを倍増させる。
 そもそもなんでこの病気が始まったのかが謎であり、このあとどうなるのか。というところで実写版「新感染」をぜひDVDで見たい。

SEOUL STATION
92分、韓国、2016
監督・脚本:ヨン・サンホ、音楽:チャン・ヨンギュ
声の出演:シム・ウンギョン、リュ・スンリョン、イ・ジュン