吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

インビジブル・ゲスト 悪魔の証明

 これはすごい。誰でも騙されます。
 密室殺人の犯人として起訴された若き実業家ドリアは、圧倒的に不利な状況から奇跡のように無罪を勝ち取れるという常勝弁護士を雇うことになった。彼女の名はグッドマン。ベテランのグッドマンはあと3時間で証人尋問が始まるという裁判開始前に、ドリアとともに事件を再検証することとなる。果たしてドリアは愛人殺しの冤罪を晴らして無罪を勝ち取れるのか?

<以下、重要なネタバレあり>

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 思えば、巻頭の場面からすべてが伏線ばかりの映画だったのだ。そもそも最初のシーンを見たときに、わたしは「この動作には何かある」と睨んでいた。しかし、それでもやっぱり騙された。
 事件はこうだ。美しい女性がホテルで殺された。犯人は彼女の愛人であった、今を時めく実業家のドリアと思われたが、彼は無罪を主張している。そもそもこの殺人事件には、それに先立つ遺体遺棄事件があったのだ。一つの交通事故のせいで自らの地位が危うくなると思った一組の不倫カップルが、事故を隠蔽するために行った工作のせいで窮地に立たされていく。追いつめられた彼らがとった行動は。。。。 
 密室殺人事件の謎を解くサスペンスと同時に人間の色欲・権力欲・自己保身を描いた意欲作だ。息子を殺されたと思い込んだ夫婦の執念と復讐心が心に突き刺さる。一つの出来事も視点を変えればまったく別の真実が見えてくるという、羅生門形式のサスペンスだ。
 ところで、回収された伏線の数々とともに、冒頭のシーンがよみがえる。エレベーターの中でグッドマンは鏡を見ながら服装を整え、自分の姿をチェックしていた。これは誰もが普通にとる行動に違いない。鏡があればその前で姿勢や服装をチェックするなど、誰もがすること。しかしそんなさりげない動作をなぜわざわざ監督は撮ったのか? わたしはこの一瞬の場面が気になっていた。やはり! これもまた見事な伏線でした。いひゃー、まいったまいった。

 公式サイトによると、「悪魔の証明」とは「存在しない事実の証明。法律用語で「困難な証明」を意味する」とか。なるほど。(レンタルDVD)

CONTRATIEMPO
106分、スペイン、2016
監督・脚本:オリオル・パウロ、製作:ミケル・レハルサほか、音楽:フェルナンド・ベラスケス
出演:マリオ・カサス、アナ・ワヘネル、ホセ・コロナド、バルバラ・レニー