吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

パッセンジャー

 宇宙空間の映像が素晴らしく美しいので、これを大画面で見ていたら、さぞやため息をついただろうと思うのが残念。
 5000人のパッセンジャー(乗客)と乗務員を乗せた移民船は、120年をかけて移民星を目指し旅の途中にある。乗客乗員は120年間冬眠状態で過ごし、自動操縦のまま船は目的地を目指すのだ。ある日、事故が起きて一つのポッドが故障し、眠っていた乗客が目覚めてしまう。彼の名はジム。自分一人だけがあと90年の旅程を残して目覚めてしまったことに気づいた彼は絶望の淵に立つ。話し相手はロボットのバーテンダーであるアーサーだけだ。1年が過ぎたころ、孤独に耐えかねたジムは美しい女性を目覚めさせることにより、この状況を打開しようとするのだが。。。。
 宇宙を舞台にしたSFという形をとってはいるが、物語はわかりやすいラブロマンスものだ。宇宙船に二人きりになってしまったその二人が美男美女だから恋の花が咲くことになるのだが、これが年齢差や顔格差が大きすぎたらどうなるんだろう?
 この映画は、愛という名の下に相手の人生を狂わせてしまうという究極のエゴイズムが許されるかどうか、という倫理問題を突き付けている。愛は利他的なものかもしれないが、いっぽうで相手の愛を渇望し、自らの欲望(孤独からの救出も含む)を追い求めるその本質からして、これほど利己的なものはなかろう。 
 ロボットバーテンダーとジムとの珍妙な会話もユーモラスであり、プロダクションデザインの鋭利な美しさも特筆もので(相変わらず「2001年宇宙の旅」の影響からは免れないみたいだが)、なかなかに見どころのある映画。ご都合主義が目につくので、それを許せると思うかどうかでかなり評価は変わりそうだが、わたしはこの倫理問題が男に都合のよいように決着したところに不満が残るとはいえ、面白く見終わった。映画館で見たい映画ですね。(ブルーレイディスク

PASSENGERS
116分、アメリカ、2016
監督:モルテン・ティルドゥム、製作:ニール・H・モリッツほか、脚本:ジョン・スペイツ、撮影:ロドリゴ・プリエト、音楽:トーマス・ニューマン
出演:ジェニファー・ローレンスクリス・プラットマイケル・シーンローレンス・フィッシュバーンアンディ・ガルシア