吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

マリアンヌ

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 第2次世界大戦中、工作員として出会った二人が偽の夫婦役を演じて、いつの間にか本当に愛し合うようになる。だが、妻が二重スパイではないのかという疑惑が沸き上がり……。

 正統派娯楽作と言うべきか、アクションありロマンスあり戦争の理不尽あり、という作品。演出も、時代設定や雰囲気も、実に古風だ。50年前の映画と言われても納得するような。しかし、そこにゼメキス監督は今の時代でなければできないようなカメラの妙を見せてくれる。砂嵐の中の車内ベッドシーンをどうやって撮ったのか、車からパンして外の世界へと動くカメラの面白味はここだけではなく、ラストの涙をそそるシーンまで続く。ゼメキス監督の派手なカメラワークやCGではなく、さりげなく「をを」と思わせる画面が憎い。巻頭のシーン、ブラピがモロッコの砂漠にパラシュート降下する場面のため息をつくような美しさから、まずは魅せられた。この場面は「イングリッシュ・ペイシェント」のオープニングを髣髴とさせる。
 アカデミー賞を始めとして3つの賞で衣装デザイン部門のノミネートを受けているのは納得の出来。衣装が素晴らしいのと、それを着こなすマリオン・コティヤールの美しさがひと際輝く。これほど美しいマリオンとブラピもそうそうないと思う。よほどCG修正をかけたのか(笑)? 美男美女のロマンスというのは映画の王道だ。これでなくては映画じゃない! 古色蒼然のこの映画、「カサブランカ」の向こうを張った作品として記憶に残るだろう。でも「カサブランカ」にはかなわないんだけどね、残念ながら。
 この映画には、戦争への静かな怒りと悲しみが漂う。戦争をしたい人々はこのような「敵国」同士の憎しみが嬉しくてしかたがないのだろうか。第二次世界大戦のドイツとイギリスとフランスの関係を考えても、誰が故郷を失い誰が敵味方になったのか、その複雑な関係に思いを馳せる。最低限の戦史の知識がないとこの映画のスパイ合戦の妙味が理解できない。本作の中では明示されていないが、ドイツの暗号をイギリスが解読していた事実はおそらく映画「エニグマ」や「イミテーション・ゲーム」で描かれたようなアラン・チューリングの活躍が裏であったのだろう。
 ブラピとマリオンが互いを見つめる瞳のやさしさには心を打たれる。この映画で二人が関係をもったことがアンジーとの離婚につながったという噂も納得の、素晴らしい演技だ。(TSUTAYA配信)

ALLIED
124分、アメリカ、2016
監督:ロバート・ゼメキス
製作:グレアム・キング、ロバート・ゼメキス、スティーヴ・スターキー、脚本:スティーヴン・ナイト、音楽:アラン・シルヴェストリ
出演:ブラッド・ピットマリオン・コティヤールジャレッド・ハリス