吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

パトリオット・デイ

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テロ等準備罪が成立しようかという晩に、テロの映画を見る。
 この社会は「テロとの戦い」という非和解の位置に立つことを選び、そのために手段を問わなくなっている。アメリカではテロとの戦いが日常生活にまで及んでいるが、日本では「テロ等準備」なるものが実在しないにも関わらず、法律だけが暴走する。


 ボストンマラソンでの爆弾事件はまだ記憶に新しい。関係者は皆生きているから、映画の最後には当事者たちが登場するし、映画の場面の随所に実写映像が使われている。主人公だけは3人の警官をミックスした架空の人物に仕立てられたが、それ以外は全員実名で登場する。
 パトリオットデイというのはアメリカの3州の祝日だということをこの映画で知った。〝「パトリオット・デイ」(愛国者の日)とは、アメリカ合衆国マサチューセッツ州メイン州ウィスコンシン州の3州において4月の第3月曜日に制定されている祝日で、毎年ボストンマラソンが開催される日である。〟とWikipediaに書いてある。

 爆弾事件は2013年に起きた。市民マラソンであるレースのゴール近く、ランナーと沿道の応援者とがごった返す中で2回にわたって爆弾がさく裂し、3人が死んだ。そのうち一人は8歳の少年だった。その102時間後に犯人のイスラム教徒兄弟が逮捕された。この映画は犯人兄弟と、警察、犠牲者たちの群像劇である。

 群像劇にしたために、登場人物一人ずつの背景説明がおざなりになってしまったことが残念だ。特に犯人側の情報をもっと描いてほしかったのだが、ここはほとんど触れられない。それよりも、どうやってこんな短時間で犯人が特定できたのか、その状況をドキュメンタリータッチで描くことに主眼が置かれていて、その点は成功している。わたしは意外といろんなことを知らなかったんだ、ということを知った作品である。犯人逮捕に至るまでにどんな逃走劇があったのか、すさまじい銃撃戦があったこともこの映画で知った。人質になった中国人留学生のキャラクターもとても興味深く、ほとんどコメディかと思うほどだったがこれもまた実話だというから、まさに事実は小説より奇なり。

 この事件によって、新婚夫婦が脚を失っている。彼らは希望を失うことなく、映画のラストシーンで再びボストンマラソンを走る姿が映し出されていた。義足で走る彼の姿を見たとき、胸がいっぱいになった。この場面を見られただけでもこの映画を見た値打ちがある。

PATRIOTS DAY
133分、アメリカ、2016
監督:ピーター・バーグ、脚本:ピーター・バーグ、マット・クック、ジョシュア・ゼトゥマー、音楽:トレント・レズナーアッティカス・ロス
出演:マーク・ウォールバーグジョン・グッドマンケヴィン・ベーコン、J・K・シモンズ、ミシェル・モナハン