29歳で夭折した天才棋士・村山聖(さとし)の伝記。幼い頃からネフローゼを患い、長くは生きられないと言われて成長した聖が病院で将棋に出会い、やがてプロ棋士となり、天才羽生善治との幾度もの名勝負を繰り広げ、最後は癌で死んでいく。壮絶な短い生なのだが、最後まで将棋への執念を燃やし、生きることに願いを抱き続けた青年の思いが静かに溢れて、とても切ない。
物語は現在と回想シーンとが交互に登場し、この役のために20キロ以上体重を増やしたマツケンが執念の熱演を見せ、東出昌大が羽生名人になりきって見事。周りを固める役者もみな好演なので、見ていてほんとうに安心感がある。特筆すべきは東出であり、これまで彼にはまったく注目することがなかったのだが、この映画では瞠目してしまった。これですっかり羽生善治さんのファンになったよー。なんていい人なんだろう。物静かでかつ負けず嫌い、知的な雰囲気を全身から溢れさせつつ村山聖と対局し、勝負が終わったあとには居酒屋で語り合う東出の演技が胸に響いた。この二人の演技は最高に良かった。やはり日本アカデミー賞の主演・助演に両者ともノミネートされている(受賞は逃した)。
人気女優の島田理恵と結婚したばかりの羽生に、「羽生さんはいいよなぁ…。死ぬまでに女を抱いてみたい」としみじみ語る聖。ああ、彼は若者なんだ。恋をすることもなく死んでいく、なんという哀れな青春なんだろう。羽生も返す言葉がない。と、観客の涙をそそるのだが、そんな場面もさらっと流れていく。
爪も髪も切らない、少女漫画が好き、持病があるのに酒が好き、などなど聖の独特のキャラクターがユーモラスに描かれ、一方、対局場面の緊迫感もあって演出は緩急の流れもよかった。
将棋はしたことがないどころかルールも知らないわたしでもとても楽しめる映画だ。将棋をよく知っている人にはどう映るんだろう。(レンタルDVD)
124分、日本、2016
監督:森義隆、企画:菊池剛、滝田和人、エグゼクティブプロデューサー:井上伸一郎、原作:大崎善生、脚本:向井康介、音楽:半野喜弘
出演:松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太、安田顕、柄本時生、鶴見辰吾、竹下景子、
リリー・フランキー