吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

MERU/メルー

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 1月に見た映画。映画館に見に来ている観客は年寄りばかりだった。こういう映画を若者が見に来ないという点が問題。というか、残念。

 ヒマラヤ山脈にあるメルー中央峰の「シャークスフィン」と呼ばれる断崖絶壁の頂上は、誰も登ることのできない危険な途。2008年に挑戦して目の前に山頂が見えながら撤退した3人の登山家が再び危険極まりないルートに挑戦する。そんな彼らの姿を追ったドキュメンタリー。3人のメンバーのうち一人はプロカメラマンのジミー・チンであり、彼は自らが登山する様子を撮影しながら困難なルートをロッククライミングするという神業をやってのけた。その驚異の映像に目が釘付けになる。

 エベレスト登山とは違ってシェルパを雇って荷物を持たせることができないこの直登ルートは、登山家自らが90キロの荷物を担いで氷壁を登っていかねばならない。途中、岸壁に宙づりになってテントを張るのだ。信じられないような光景が続く。

 映画はコンラッド、ジミー、レナンという登山家たちのインタビュー証言と、実際にクライミングしている最中の映像とを交互に映し出す。過去の彼らの人生も回顧され、大きな雪崩に巻き込まれたジミー・チンの恐怖の映像も見られる。とにかくもう口をあんぐり開けているしかないような過酷な登山の光景が次々に現れてくるので、映画館のゆったりとした椅子でぬくぬくと映画を観ているのが申し訳ないような気になってくる。 

 なぜ登るのか、なぜ挑戦するのか、何を求めてるのか。そんな問いかけはそもそも無意味なのだ。これは彼らにとって生きることそのものなのだから。重傷を負ったレナンが驚異の回復力を見せて再びメルーに挑戦するさまもすさまじいし、親友を目の前で喪った経験を持つコンラッドの苦悩にも胸をつかれる。

 クライミングの過酷さだけではなく、彼らの生活や生き様のドラマにも魅かれる、一見の価値あるドキュメンタリーだ。お薦め。

MERU
90分、アメリカ、2015
製作・監督:ジミー・チンエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ、音楽:J・ラルフ
出演:コンラッド・アンカー、ジミー・チン、レナン・オズターク、ジョン・クラカワー、ジェレミー・ジョーンズ、ジェニ・ロウ=アンカー