吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

スノーデン

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 「ニュースの真相」よりさらに現在進行形のお話。よくぞこのタイミングでドラマ化したものだと感心する。オリバー・ストーンはこの手の社会派作品を作らせたら実にうまい。スノーデン事件に関しては、既にドキュメンタリー映画アカデミー賞を受賞したように、高い評価を得ている。このドキュメンタリーをわたしは未見なので比べることはできないが、ストーン監督の本作はドキュメンタリーでは描けない、スノーデンの過去をじっくり見せてくれて、この若者がなぜ愛する祖国を裏切ったのかが手に取るように理解できた。

 しかし、この「手に取るように理解できる」というのが実は曲者なのかもしれない。人はそれほど単純な生き物だろうか。スノーデン青年がなぜ内部告発者となって他国へ亡命することになったのか。それは彼の正義感だけでは説明できないのではないか。そういった「微かな疑問」は残るのだけれど、いずれにしても本作が緊張感あふれる良作であることは間違いない。

 事件の大筋についての観客の記憶が薄れないうちに製作公開される作品というのは、最小限の説明で済むのが利点だ。大胆な省略が施された本作は、50年後の観客には説明不足でさっぱりわからない、ということになるかもしれないが、同時代を生きる人間には、たとえ日本人でも理解できるような展開なので、余計な説明がない分、スピード感にあふれて、グイグイと引き込まれていく。

 本作はドキュメンタリーと違って、スノーデンと恋人シェイリーンとのラブシーンもあり、観客サービスも怠りない。CIAやNSA国家安全保障局)の職員として多忙な日々を送り、恋人との生活もおざなりとなる彼に対してシェイリーンが不満をぶつけるシーンなども、仕事中毒の夫に対する妻のいらだちとまったく同じで、どこにでもある危機的なカップルの状況を描いて観客の共感を得るだろう。スノーデンの仕事中毒と、仕事への疑心とは同時に亢進する。優秀な情報技術者のスノーデンは、仕事にのめり込むほどに、政府が対テロ工作の範疇を超えて世界中の人々の個人情報を収集していることに疑問を感じるようになる。ついには自分たちの生活すら政府機関に監視されていることに気づいた以上、彼はもはや純粋な愛国者ではいられなかった。

 カメラはスノーデンの顔をアップでとらえ、彼の神経質な表情を見事に演じたジョセフ・ゴードン=レヴィット(本人にそっくり!)によって、観客にその心理を伝え、観客自身も疑心暗鬼にとらわれていく。わたしは最後までスノーデンの心理につかまれたまま見終わったが、同時に上記に書いたような疑問もまた沸き起こってきた。恋人との生活も諦めて、すべてをすてたのか? その若さで? それはあんまりだろう! しかし実際には。。。。

 こうなると、ドキュメンタリー『シチズンフォー~スノーデンの暴露』(2014)を見てみたくなる。

SNOWDEN
135分、アメリカ、2016
監督:オリヴァー・ストーン、製作:モリッツ・ボーマンほか、原作:ルーク・ハーディング、アナトリー・クチェレナ、脚本:キーラン・フィッツジェラルドオリヴァー・ストーン、音楽:クレイグ・アームストロング
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィットシェイリーン・ウッドリーメリッサ・レオザカリー・クイントトム・ウィルキンソンスコット・イーストウッドリス・エヴァンスニコラス・ケイジ