吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ニュースの真相

f:id:ginyu:20170406225941p:plain

 見ごたえのある社会派作品。「事件」からまだ10年数年しか経っていないこと、登場人物がほぼ実名であることなど、生々しさがあるため、映画ではかなりの省略が行われている。そのため、日本の観客には説明不足で不親切な展開であり、劇場公開が短い期間で終わってしまった残念な作品だ。

 そもそもアメリカ三大ネットワークの一角を占める大メディアの看板番組で失態が起きた、ということが予備知識なしには理解できない。主人公メアリ・メイプスの手記が原作となっているだけあって、彼女の心理が手に取るようによくわかり、脚本のうまさ以上にケイト・ブランシェットの好演が光っている。キャリアの絶頂にあったプロデューサーが、大統領選挙中のブッシュの軍歴詐称事件に飛びつく。つかまされたのは偽の証拠だったのだが、軍歴詐称(兵役逃れ)があったことは間違いない、と最後までメアリ・メイプスは信じている。だが、ネットで右翼ブロガーが「文書は偽物」と断じたことが波紋を呼び、ブッシュの問題は等閑視され、「偽の証拠で大統領を窮地に陥れようとした左翼女が悪い」という非難が囂々と起きるのだ。人気アンカーであったダン・ラザーもあおりを食って降板となるわけだが、ダンとメアリの関係が疑似父娘のようでありまた強い同志愛に結ばれていて、快い。

 偽文書をCBSに送り付けた人物に「嘘をついた」と無理やり言わせようとするインタビューの光景がまるで査問かリンチのようで痛々しかった。この場面が強く印象に残っている。報道する者の自己抑制や良心と、真実をあくまで追求するアグレッシブな態度は、どちらがジャーナリストに必要な素養なのだろう、と考えさせられた。人を傷つけてまで真相を暴くことが本当に正しいのか? そして、その「些細な瑕疵」と「大きな権力の腐敗」を秤にかけたときに、後者がないがしろにされ、会社組織が保身のために身内を切っていく理不尽さにも強い憤りを感じずにはいられない。非常に後味が悪い結末だけれど、意外と爽やかなのは、ケイト・フランシェットの魅力のなせる技か。

 これもアーカイブズ映画の一つ。過去の記録の山から必要な書類を探し出す姿には、「おお、やっぱりアーカイブズって大事よね」と思わせられる。

 本作を理解するうえで、「米大統領選、情報操作とメディア 持田直武 国際ニュース分析」がとても参考になる。http://www.mochida.net/report04/9apjm.html

 ところで、FEAてなんの略? Fだけはわかったけど、EとAは聞き取れなかった。(レンタルDVD) 

TRUTH
125分、オーストラリア/アメリカ、2015
監督:ジェームズ・ヴァンダービルト、製作:ブラッドリー・J・フィッシャーほか、製作総指揮:ミケル・ボンドセンほか、原作:メアリー・メイプス、脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト、音楽:ブライアン・タイラー
出演:ケイト・ブランシェットロバート・レッドフォードトファー・グレイス、エリザベス・モス、ブルース・グリーンウッドデニス・クエイド