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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

湯を沸かすほどの熱い愛

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 湯を沸かすほどの愛っていうのは、銭湯が舞台になっているから。主人公は宮沢りえが演じる銭湯の女将さん。夫が一年前に突然蒸発し、そのまま銭湯は休業状態にあって、しかも娘は高校で虐められていて、その上自分は突然医者に余命2か月を宣告される。もうこれ以上ないというぐらい問題の多い不幸な家族。しかし、探偵の力を借りて蒸発した夫を見つけ出した。だらしない夫は若い女に産ませたらしい娘を連れて銭湯に戻ってくる。ここからが宮沢りえのど根性母さん物語が涙なしには見られない、という展開。痩身の宮沢りえがそのまま病人の役を演じられるというのがすごい。

 ストーリーが前に進むにつれて、この家族はみんな誰かに捨てられた人ばかりだということが明らかになる。自分が捨て置かれた人間だという傷を負い、苦しみながら生きている者たちが家族となり、懸命に今の状態から脱しようともがきあがき、そして愛を深めていく。

 だらしなくて頼りない夫役のオダギリジョーははまり役だし、子役たちの熱演も素晴らしい。中野量太監督はこれが事実上の長編デビューとは思えない、落ち着いた脚本と演出で観客を飽きさせない。少々やりすぎという場面もちらほらとはあるのだけれど、その軽いコメディタッチの部分もまた、重くなりがちな話に仄かな明かりを灯す。

 舞台となる銭湯の古さがたまらなくいい。今どき薪で沸かしますか! これはラストシーンの伏線でもあったのだな。ヒッチハイクで拾った青年とか、多少無理のある設定がマイナス要因ではあるが、素直に感動してしまうのは、宮沢りえ扮する母が決して諦めない前向きな、そして愛にあふれる女性だからだ。彼女が「死にたくない。生きたい」と泣き崩れるシーンは本当につらかった。

 家族の愛情や絆が必ずしも血縁によってもたらされるものではないことを描いている点も、わたしの琴線に触れた。父だからといって愛せるわけではなく、母だからといって懐かしいわけでもなく、でもやっぱり肉親の愛を渇望する人々の心が切ない。役者たちからいい演技を引き出した中野監督には何か賞をあげてほしいと思ってしまった。

125分、日本、2016
監督・脚本:中野量太、エグゼクティブプロデューサー:藤本款 福田一平、撮影:池内義浩、音楽:渡邊崇
出演:宮沢りえ杉咲花、篠原ゆき子、駿河太郎、伊東蒼、松坂桃李オダギリジョー