吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

シークレット・オブ・モンスター 

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 サルトルの短編小説にヒントを得たということだが、小難しい理屈などなくて、ひたすらうるさくて恐ろしい音楽が鳴り響き不安を掻き立てる作品。原題「指導者の少年時代」っていったって、その指導者がなんで独裁者になったのか、この映画を見ても皆目わからない。答えを提示するようなストーリーは開陳されておらず、異様に美しい少年が広すぎる屋敷の中で孤独を募らせていく様子だけが淡々と描かれる。

 時代は第1次世界大戦が終わったばかり、場所はフランスのおそらくパリ郊外の屋敷。アメリカからやってきたパリ講和会議出席者である外交官一家の一人息子が主人公だ。すでに中年の域を超えている父親と、まだ若く美しく賢い母、優しい料理女(老女)、少年にとって姉のようなフランス語女性教師、といった大人たちに囲まれた彼は、ときどき子どもらしい癇癪を起したりするのだが、大人たちは彼を「手に負えない悪童」扱いをする。
 仕事に熱心で子どもの養育を妻に任せきりにする父親とか、厳格で教育熱心な母親とか、そんなどこにでもありそうな一家の少年がなぜ独裁者に育つのか。その答えをこの物語に求めても何もわからない。ふつうと違うのは、両親がハイソサエティな国際夫婦であることと、少年が一時的とはいえ、外国に暮らしていること。そして何よりも、人間離れしていると思えるほどに美しいこと。

 薄暗い屋敷の中の様子がゴシックホラーのように映し出されたり、奥行きのある屋敷の中が不気味に見えたりといった、雰囲気作りには熱心な作品だ。雰囲気倒れといってもいいぐらいの重厚で陰鬱な雰囲気に惑溺できる人なら、とても面白く見ることができるだろう。

THE CHILDHOOD OF A LEADER
116分、イギリス/ハンガリー/フランス、2015
監督:ブラディ・コーベット、撮影:ロル・クロウリー
出演:ベレニス・ベジョリーアム・カニンガムステイシー・マーティンロバート・パティンソン、トム・スウィート