これぞ労働映画。
埼玉県川口市の鋳物工場街を舞台にした、貧しくとも懸命に生きる人々の様子を活写した作品。
巻頭、鋳物工場での作業風景が写る。今はこんなふうに鋳物を作ることはないのではないか。どろどろに溶けた鉄を運ぶ様子には、労働災害が多発することを予感させるものがある。案の定、主人公ジュン(当時16歳の永小百合の可愛いこと! 抱きしめてグリグリしたくなる)の父親は鋳物工場のベテラン職人だが、脚を怪我して結局は解雇されるのである。若い労働組合員が労災保険が適用できるとジュンの父を説得しようとするのだが、頑として父は言うことを聞かない。中小の町工場では、親方(経営者)と職人は兄弟のようなものであり、労働者の権利など見向きもしない。この映画では労働組合の活躍や、労働者の権利がきちんと描かれており、さらには中学生のジュンに「一人が5歩前進するよりも、10人が1歩ずつ前進するほうがいい」という名言を吐かせるなど、極めて社会主義的な作品である。
貧しい長屋暮らしのジュンは中学3年生。高校進学を夢見て懸命に勉強しているのだが、父の失業でそれも実現が遠のいてしまう。しっかりものの長女ジュンはやんちゃな弟や生まれたばかりの妹の面倒を見る勝気な少女だ。すぐに感情的になって泣いたりわめいたりするのも可愛い。何もかも一生懸命なところがけなげで、あの愛らしい吉永小百合が演じているのだからもう言うことなし。
小学生が「所得倍増、所得倍増」とスローガンを嬉しそうに唱えたり、北朝鮮への帰国者を駅頭で鳴り物入りで見送る風景など、当時の政治経済状況がよくわかる描写が随所にあり、とても興味深い。テンポもよく、子どもたちのいたずらや遊びなども生き生きと描かれていて、労働者生活かくありき、という映画である。未来に向かう希望が描かれているのが1960年代だなぁとしみじみしてしまった。
キューポラは鋳物工場の溶解炉のことで、その先端部分の排煙筒が煙突のように工場の屋根に突き出ていた。映画の巻頭でこの排煙筒が林立する様子が映し出される。(レンタルDVD)
100分、日本、1962
監督:浦山桐郎、企画:大塚和、原作:早船ちよ、脚本:今村昌平、浦山桐郎、撮影:姫田真佐久、音楽:黛敏郎
出演:東野英治郎、杉山徳子、吉永小百合、市川好郎、鈴木光子、森坂秀樹、浜村純、菅井きん、浜田光夫、北林谷栄、殿山泰司、加藤武、岡田可愛