吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

世界一キライなあなたに

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 ヒロインが超センスの悪い服を着ている上に体型がぽっちゃりしているという、田舎娘丸出しの恰好で登場し、さらには豊かすぎる表情で眉毛を自在に動かすのも気色悪く、「うわー、この映画は失敗だったか」と思っていたのだが、なかなかどうして、この彼女が実に愛らしく、その笑顔が見る人の心をほっこりさせる。

 物語の設定はまるで「最強のふたり」プラス「きみがくれたグッドライフ」。大富豪のイケメン若者が事故によって首から下が動かなくなり、彼は荒れて恋人とも別れてしまった。そんな彼の介護人として雇われたのはダサイ服装のルイーザ。よくしゃべりよく笑う彼女は、身体が不自由で心も荒んでいるウィルの気持ちを徐々に解きほぐしていく。ルイーザには健康そのものの恋人がいるのだが、いつしかウィルに惹かれていく。やがて二人は階級差を超えて恋に落ちるのだが。。。。

 イギリスが階級社会であることを強烈に印象付ける作品である。一方はお城に住む若者で、元気なころは企業買収の仕事をしていた。一方は労働者階級の娘で、狭い自宅には彼女の稼ぎをあてにする家族がいる。音楽の趣味も映画の趣味もまったく異なる二人は、文化資本の格差をまざまざと観客にみせつける。ウィルがルイーザを半ば馬鹿にして見せたDVDが映画「神々と男たち」というのが興味深い。「字幕なの?!」と驚くルイーザが、食い入るように見終わった瞬間に感動の言葉を吐くのがとても面白い。わたしももう一度「神々と男たち」を見直したくなったわ。

 ルイーザがウィルの生きる希望になり、二人は困難を乗り越えてハッピーエンドを迎える、というお話になるのかならないのかがミソで、ウィルが尊厳死安楽死)を決意していることが、彼らの愛にとって最大の障壁となる。

 男が賢くハンサムな大金持ちで、貧乏な女を教育し、金にあかせて彼女に贅沢な楽しみを教えていく、という設定はフェミニズム的かつ格差社会的な話題を提供してくれて、大学の教材によいのでは。

 ルイーザの父親ダウントン・アビーのミスター・ベイツです。

ME BEFORE YOU
110分、アメリカ、2016
監督:テア・シャーロック、原作:ジョジョモイーズ『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』、脚本:ジョジョモイーズ、音楽:クレイグ・アームストロング
出演:エミリア・クラーク、サム・クラフリン、ジャネット・マクティアチャールズ・ダンス、ブレンダン・コイル、スティーヴン・ピーコック、マシュー・ルイス