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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

アーロと少年

映画

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 「ペット」のような大活劇のめまぐるしいアニメを劇場で見た後でこういう鉄板ものの心温まるアニメを見ると、ほっとする。DVDを一度に見たわけではなく、何度かに分けて、しかも日本語版と英語版を交互に見たものだから、誰がどの声だったかわからなくなるという混乱もきたしたが、ストーリー全体は予定調和とはいえ素晴らしいものだった。設定の面白さで魅せる映画なので、ストーリーじたいには奇をてらったところがなく、バディもののロードムービーかつ少年の成長譚の定番を逸することがない。 

 もしも6500万年前の巨大隕石落下がなければ、地球はどうなっていただろうか。落下するはずの隕石が流星となって飛んでいくのを見守る恐竜たち。それから数百万年後、地球では絶滅を免れた恐竜たちが進化して、哺乳類を家畜として飼っていた。この世界では恐竜が言葉を話し、人類は言葉を発せず、犬のように四足で移動する下等動物であった。
 ある日、アーロという名の草食竜が誕生した。彼は一家の末っ子で甘えん坊の弱虫。そんなアーロを心配した父親は彼を鍛えるために遠くへ連れ出したのだが、その帰途に嵐に遭い、濁流に飲みこまれてしまう。自分のせいで父が死んだと嘆き悲しむアーロは、偶然出会った人間の少年のせいで川で溺れ、意識を失ってはるか遠い地で目覚める。少年のせいで自分が家族から離れてしまったと恨みに思うアーロだったが、小さな身体に似合わない勇敢で敏捷な少年はアーロの世話をやくようになり、いつしか二人は言葉に頼らないコミュニケーションを成立させて、互いの境遇を理解し合うのだった。

 恐竜がその形態のままで進化して言葉を操るようになり、農耕・牧畜を行っているという設定が斬新で面白い。そして、群れ(家族)からはぐれた男の子恐竜が艱難辛苦に耐えて成長するというビルディングスロマンであるところが、頑張る男の子の話に弱い大人には琴線に触れるものがあるのではなかろうか。恐竜(=人)が大人になるためには、さまざまな苦難を乗り越えるだけではなく、離別の悲しみにも耐えねばならない、というあたりが普遍的価値を有した作品と言えるだろう。それだけに新鮮味がないとか斬新さがないといった批判は容易に想像がつく。まあ、そんな映画だけれど、わたしは十分面白かった。アーロと行動を共にするヒト=少年の愛らしさといい、川の映像のリアリティといい、大変素晴らしかった。

 恐竜が絶滅してくれたから今は人類の天下だが、恐竜がそのまま進化していたら、ヒトなんて今頃どうなっていたやら。そう思うと、今こうしてわたしが生きていることが奇跡のように思える。何億年と引き継いできた命の環をどのように次に手渡すのだろう。社会の成果は決して個々の「血統」レベルの事象ではなく、社会全体で引き継いでいくものと、わたしは考える。恐竜が主人公となる物語には、通常の「子どもから大人へ」という成長物以上のものをそこに読み込んでしまって、壮大な地球の歴史につい思いを馳せてしまう。

 まあ、わが息子が恋人を連れて帰省している夏にはいろいろ思うことがあり。とにかくよい作品です。(レンタルDVD)

THE GOOD DINOSAUR
93分、アメリカ、2015 
監督: ピーター・ソーン、製作: デニス・リーム、脚本: メグ・レフォーヴ、音楽: マイケル・ダナジェフ・ダナ
出演: レイモンド・オチョア、ジャック・ブライト、サム・エリオットアンナ・パキン
声の出演(日本語吹替版): 安田成美、松重豊八嶋智人片桐はいり、石川樹