吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ペット

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 夏休みの昼間ということもあってか、劇場内はけっこうな入り。上映中、後ろの席の幼児が大きな声で笑うのが可愛くてたまらなかった。
 もちろん日本語吹き替え版で見たわけだが、本物の役者たちがアニメの吹き替えをすると、それらしい声を出すところが驚きだ。永作博美は元々うまい役者だから何でもできるんだろうけれど、アニメのキャラクターを演じるときはそんな感じの発声をするのも素晴らしい。つまり、はっきりと大きな声で、通常よりも高いトーンで発声する、どこか声のトーンが日常とずれた独特の感じ。今回は役者の声優ぶりを楽しむことができたことも満足点である。

 これがディズニーアニメではなく、ピクサーでもなく、「イルミネーション・エンターテイメント」という製作会社が作ったというところが注目点か。大ヒットアニメの「ミニオンズ」を作った会社なんだが、わたしはミニオンズが生理的に好きになれないので、この「ペット」と併映された短編ミニオンズにもあまり魅かれなかった。
 本作は予告編が大変よくできていて、これだけで十分笑わせてもらった。本編も確かにとても面白く楽しめるのだが、アクションシーンがめまぐるしすぎておばさんにはちょっとしんどかったので、やはり老人にはもう少し落ち着いた作品のほうが肌に合う。

 「飼い主が留守の時、ペットはどうしているのか」という疑問から始まった本作は、「トイ・ストーリー」を思わせるような「人間が見ていないところで自由に振る舞うペット」の姿を創造したものだ。彼らはお利口さんにしていないし、どんちゃん騒ぎするし、冷蔵庫の中のご馳走は食べつくすし、割れ物は落として破壊するし、ペットどうしでおしゃべりに花を咲かせてパーティを開いたりしているのだ。そんな大笑いできるシーンの連続から始まる本作は、下水道に築かれた「悪の巣窟」のダーク感がすさまじい。近未来の退廃した町のようで、ちょっとしたSF映画っぽい感じがそそる。

 でも下水道だと思うとわたしは気色悪さが先に立ち、「早くこの不潔な場面から転回してくれ」と心の中で祈っておりましたよ。下水道に住んでいて下水の中を泳いでいるくせに悪のウサギは真っ白でふわふわして見た目がとってもかわいいなんて、変だし! いや、その落差が面白いかもしれない。このウサギキャラが今回の注目株で、彼は人間に捨てられた恨みを晴らすべく人間世界への反撃を開始するのだが、本人は「捨てられた恨み」を自覚していなくて、「人間から解放されたぞ、ざまあみろ。俺様は自由だ。お前たちペットは情けないやつだ」とペット解放戦線のリーダーのつもりでいる。革命家を自称するウサギが揶揄の対象となる映画って、いったいどういう現実を映しているのかと深読みしたくなるが、はてさて。

 物語の基本は大活劇であり、ペット解放戦線の追っ手とNY市動物管理局の捕獲網とが主人公の犬2匹を追いかけてカーチェイスになる、というスリルとスピードに満ちたお話だ。笑いとスリルを堪能しているうちに、ペットの本質的な悲しさやかわいらしさのようなものが観客に伝わる、という仕組みだけれど、笑って見ていたよい子たちには理解できたかなぁ~? 夏休み、親子そろって楽しみましょう。一人で見ていたおばさんはもちろんわたしだけでした(;^_^A

THE SECRET LIFE OF PETS
87分、アメリカ、2016 
監督: クリス・ルノー、ヤーロウ・チェイニー、脚本: ブライアン・リンチほか、音楽: アレクサンドル・デスプラ
声の出演(日本語吹替版): 設楽統、日村勇紀中尾隆聖山寺宏一佐藤栞里銀河万丈永作博美