吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

レッド・ファミリー

f:id:ginyu:20160813221422p:plain コメディのはずだが、凍るようなお話である。ラストの悲惨さには言葉を失う。

 北の共和国から韓国にやってきた工作員たちは仲の良い家族を装っているが、実はまったくの赤の他人であり、それぞれが祖国に残した家族を「人質」にされているために、国家からの命令に逆らえない。その赤い一家の隣に住むふつうの韓国人一家は、毎日大声で喧嘩をし、長幼の序もなく口汚く罵り合っている自堕落で腐敗した資本主義の飼い犬なのである。そんな一家を見下していたスパイ一家の仕事は脱北者の暗殺と密偵。

 スパイ一家の表向きの顔と裏の顔の落差がすさまじすぎて、笑うに笑えないコメディだ。彼らが国に残してきた本当の家族への愛に泣く場面は涙をそそる。実話かどうかはともかく、こういう話はありそうに思えるところが怖い。そして、北の共和国の悲惨な状況を韓国側が「かわいそうに」と上から目線で見ているところも気になる。

 キム・ギドクの脚本を別の監督が作っているために、いつものキム・ギドクのような強烈な毒が少々抜けているように思うが、その代わりに後半一気にシリアスな展開になるところからはもうほとんど切ない愛情物語へと転化する。ある意味心に残る映画である。(レンタルDVD)

100分、韓国、2013 
監督: イ・ジュヒョン、製作総指揮: キム・ギドク、脚本: キム・ギドク 
出演: キム・ユミ、チョン・ウ、ソン・ビョンホ、パク・ソヨン、パク・ビョンウン、カン・ウンジン