吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

10 クローバーフィールド・レーン

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 かの有名な「クローバーフィールド」を見ていないので比べることができないし、そもそも続編かどうかも不確定という本作。

 ある日、交通事故に遭ったヒロインは、目覚めると見知らぬ部屋に監禁されていた、という密室からの脱出劇。メアリー・エリザベス・ウィンステッドがタンクトップで活躍するのは「エイリアン」のシガニー・ウィーバー以来の伝統か。

 ミシェルという若くて美しい女性が、むくつけき中年男性に監禁される話かと思いきや、ここにはさらにもう一人若い男がいた。しかも監禁されている場所はシェルターであり、若者エメットは自らシェルターに逃げ込んできたという。シェルターの持ち主ハワードは「こんなこともあろうかと、シェルターを作って準備していたんだ」と言う。外の世界は大気が猛毒で汚染されて、生物が惨死している。しかし、シェルター生活が長引くにつれて、ハワードの正体がサイコパスではないかという疑いが沸き起こる。脱出することを決意したミシェルとエメットはハワードの目をごまかして密かに準備するが…

 エイリアンは居るのか、それともハワードの狂言か。ハワードは命の恩人なのか恐るべき殺人者なのか。人が3人いたら二人と一人に分かれるといわれているように、この映画ではまずミシェルが一人呆然と恐怖におののいている状態から、エメットと共にハワードに対立する構図が出来上がる。全編ほとんどこの3人だけの密室劇なので、異様な緊張感がある。ハワードはなぜこんな大規模なシェルターを作ったのか? 彼が元軍人というのも何か曰くがありそうだ。しかし謎は解き明かされず宙ぶらりんなままに、真相を知らない観客もミシェルとともに恐怖におびえる。

 このシェルターが本格的な建物であり、普通の家と同じぐらい広いというのが設定上のミソで、つまり密室といえども3人がそれぞれ別室に居ることが可能で、個別に動き回る余裕がある。密室劇の狭苦しさがありながら、何種類ものアクションシーンが可能な仕掛けが随所にあって面白い。

 最後の最後にちょっと意味不明な展開になるが、そこまではとても怖くて、ハワード役のジョン・グッドマンの演技力にうならされる。この正体不明の男の存在が恐怖心を募らせる要因であり、外界の「エイリアンの攻撃」という現実も本当のことなのか男の妄想なのか作り話なのかどうか、わからなくなってくる。

 いろんな映画サイトで予告編がネタばれとの非難ごうごうだった。わたしもそう思う。

10 CLOVERFIELD LANE
103分、アメリカ、2016 
監督: ダン・トラクテンバーグ、製作: J・J・エイブラムス、脚本: ジョシュ・キャンベルほか、撮影: ジェフ・カッター、音楽: ベアー・マクレアリー
出演: ジョン・グッドマンメアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョン・ギャラガー・Jr 
声の出演: ブラッドリー・クーパー、スマリー・モンタノ