吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

マネーモンスター

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 映画のタイトルと同じ名前の、毎週金曜び夜の財テク娯楽番組の人気者が生放送中に人質になる、というサスペンス。人気キャスターのリー・ゲイツは軽佻浮薄そうな男。スターだからお金は持ってるが、女性ディレクターに「精神年齢7歳」と言われて、離婚も3回。この男、人間としてどうよ、という感じをジョージ・クルーニーが楽しそうに演じている。

 犯人は、リー・ゲイツが薦めた株を買ったために全財産をすってしまった若者。彼は番組をジャックし、リーに爆弾ベストを着せて叫ぶ。「起爆スイッチを押したぞ! この指を離したら爆破だ。さあ、一瞬で株主たちが8億ドルを失った、その原因企業アイビスの最高責任者を呼んで来い! 釈明・謝罪させろ! 我々の敵はイスラムでも中国でもない。こいつらだ!」

 出足はなかなか軽快。人気キャスターのリー・ゲイツ(て、この名前はどうよ)が夕食を一緒にする相手とのアポがあるとかないとか、携帯でしゃべっているところから始まる。意外なことに、ジョージ・クルーニーダンスが上手だったんだ。彼がキャスターを務める財テク番組は真面目なアナリスト番組の様相はまったくなく、過剰な演出で面白おかしくウォール街の解説をするものだったのだ。リー・ゲイツも踊りまくる。でもこの番組を見てそそのかされた視聴者は、彼の言うままに株を買っているのだ。生放送中にいきなりジャックされ、リーは爆弾を着せられて絶体絶命のピンチ! 犯人が失った金額が「たったの6万ドル」と聞いて「5分で用意するから、それで弁償してやる」と答えるあたりがいかにも。さーて、この格差社会アメリカの実態を実感していないリー・ゲイツの命は助かるのか?!

 大変緊迫した状況が続くのだが、意外なほどにリーは動じていないように見える。彼はバカだからパニックになっていないだけかも?とわたしは思ってしまったわ。リーに指令を出すのはディレクターのジュリア・ロバーツ

 上映時間95分という短い時間にまとめたために、緊迫感が持続して、なかなか面白かった。ただちに警官が配備されて交渉人が呼ばれるところとか、手順通り。犯人には妊娠中の恋人がいることがわかって、その彼女が説得係に呼び出されるが、裏目に出るあたりは思わず苦笑。

 場面がスタジオからなかなか動かないためにダイナミズムにかけるきらいがあり、そろそろ別の展開を見せてほしいなーと思い始めたころにやっと、リーと犯人は外に出る。ここからはなんだかちょっと出来すぎているような気がするが、とにかく一気に真相究明へ向けて物語が展開し始める。

 結局、だれが一番悪者なのか? この映画は、金融資本主義を根本的に批判することがない。誰もかれもが金を人間力の判断基準に置いている。そもそも博打にすぎない株の売買に一喜一憂したり全財産をつぎ込んだりする価値観そのものを問わない。そこがわたしには一番の不満点だ。結局みんな同じ穴の狢じゃないか、と思ってしまう。人質になったリーが犯人に同情的になる過程もあまり説得力がない。ほんとうに彼が犯人に同情したのなら、今までの人生すべてを反省してまったく違う生き方をすべきだろうが、どうもそうならないような気がする。

 この映画に登場する男はみんな強欲でわがままで浅はかだが、女は知的でしっかりして、美しい。いかにもジョディ・フォスター監督が作りそうな映画だ。

 アイビスの広報担当責任者役のカトリーナ・バルフが知的で上品。涼しげで優しそうな目元が印象に残る。こんな絶品の美女がいたとは。

MONEY MONSTER

 95分、アメリカ、2016 
監督: ジョディ・フォスター、製作: ダニエル・ダビッキ、ジョージ・クルーニーほか、脚本: ジェイミー・リンデンほか、撮影: マシュー・リバティーク、音楽: ドミニク・ルイス
出演: ジョージ・クルーニージュリア・ロバーツ、ジャック・オコンネル、
ドミニク・ウェストカトリーナ・バルフ、ジャンカルロ・エスポジー