現代劇ふうにアレンジしたシェイクスピアかと思ったのだが、いやいやそのままシェイクスピアでした。もうセリフ回しのかったるいこと。その修辞を使ってぐだぐだ語っている隙に敵に撃たれたらどうすんの。いちいちいちいち、七面倒くさいセリフを言うのはもう歌舞伎と同じで、これは「型」が決まっているわけですな。
とにかく暗い重い暗い重い。それでも面白くてぐぐっとつかまれるからシェイクスピア劇あなどるまじ。
戦闘シーンの残虐ぶりはアクション映画としての見どころも十分である。獅子奮迅の戦いを見せるマクベスの強さには鬼神という言葉がふさわしい。わがマイケル・ファスベンダーが渋く渋く活躍するのである。彼の物悲しい瞳はこの悲劇にふさわしい。魔女の予言にからめとられ、権力欲に取りつかれた男は自らの欲望に飲み込まれ、疑心暗鬼にとらわれていく。
暴君は力が強いから残虐なのではなく、弱いからこそ自分の周囲の強い人間を排除しようとする。スターリンや毛沢東の粛清と同じか、とつくづく人間の愚かさに思いを馳せながら、わたしはマクベスの暗いまなざしを眺めていた。小心者のマクベスに比べれば、スターリンや毛沢東の暴虐策士ぶりのほうが遥かに上手を行く。自らの罪におののき、精神の均衡を失っていくマクベスの恐怖もまた観客に迫ってくる。マイケル・ファスベンダーが熱演しております。
マクベスを唆す悪妻・マクベス夫人がマリオン・コティヤール。あまり怖さや凄みがない。なぜ彼女が権力の虜となるのか、その背景がいまいち理解できなかったのだが、巻頭の場面で幼い子どもを喪ったマクベス夫妻の悲しみが描かれている、それが彼らの悲劇の始まりなのか。
画面を見ていると、スコットランドの荒れた大地ばかりが映し出されるので、「あんな不毛の土地を奪い合って戦争しているのか、愚かな」と感じる。実際にはスコットランドはもっと豊かではないのか。知らんけど。
バーナムの森が動くシーンはもっとすさまじい何かを期待したのだが、そうきたか。これはちょっと拍子抜け。というか、そういう解釈ですか、と映画的な改変に納得したようなしないような。
重厚な美術と撮影を堪能する映画であるから、ぜひとも劇場の大スクリーンで見るべき。
MACBETH
113分、イギリス/アメリカ/フランス、2015
監督: ジャスティン・カーゼル、製作: イアン・カニングほか、製作総指揮: テッサ・ロスほか、脚本: トッド・ルイーソ、ジェイコブ・コスコフ、マイケル・レスリー、撮影: アダム・アーカポー、音楽: ジェド・カーゼル
出演: マイケル・ファスベンダー、マリオン・コティヤール、パディ・コンシダイン、ショーン・ハリス、ジャック・レイナー、エリザベス・デビッキ、デヴィッド・シューリス