36歳という若さで安楽死(尊厳死)を選ぶ主人公の最期の自転車旅行を、時にユーモラスに時に重く、最後はさわやかに描く物語。
毎年5月は自転車月間らしい。そんなもの誰が決めたのかと思いきや、一般財団法人日本自転車普及協会などが推進しているようだ。そういうわけでもないだろうけれど(いや、やはりこの時期に合わせての公開か?)、自転車旅行の映画。ドイツからベルギーまで自転車で570キロの旅に出る6人は、毎年一緒に仲良く旅行する友人グループで、今年ですでにこの旅は15回目になる。今年はなぜかベルギーに行くと決めたハンネスとキキの夫婦に、他のメンバーは「なんだ、ベルギーかよ。おもんね」という反応。そうなの? ドイツ人にとってベルギーって面白みのないところなの? そもそもベルギーとドイツが国境を接していたことにもこの映画を見てようやく気付いたような次第で(恥)。大陸はよろしいなぁ。自転車で外国へ行けるんだ。
で、出発してすぐにこのベルギー行は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で「余命3~5年」と2年前に宣告されたハンネスが合法的に安楽死できる国を求めて計画したということが発覚する。たちまち重苦しい雰囲気に包まれる一行。さてこの旅行の先行きはどうなるのか?!
尊厳死を求める旅という重いテーマではあるが、旅の途中で罰ゲームのような「課題」を互いに課しあう遊びを織り交ぜ、楽しみながら一行は進む。つまり、観客もその「秘密の課題」がなんなのかをワクワクしながら楽しめるという趣向になっている。泥まみれになってはしゃぐ様はとても大人とは思えない微笑ましい場面。これ、役者たちも最初は嫌がっていたシーンらしいが、いざ撮影が始まったら本気で楽しんで遊んでいたらしい。そういう雰囲気がとてもよく伝わるいい場面だ。
ついにベルギーに到着した一行は、ハンネスが尊厳死を依頼していた医者を訪ねるが、なんということか、その医者が前日に事故に遭って面会できないという。ぽっかり空いてしまった1日の空白に、6人はどんな思いを抱えていくのか。。。
というわけで、この半年間に尊厳死を扱った映画を2本見たことになる。西洋では尊厳死を肯定する思想が広がっているのだろうか。映画を見ただけでは実相はわからないが、日本よりかなり尊厳死を肯定し、法整備も進んでいるのではないか。
この映画はハンネスを主人公としながらも6人の群像劇である。だが、それぞれの背景が描かれていないのが悔やまれる。そもそもハンネスは家具職人なのか? それすらよくわからない。15回も毎年一緒に旅行するほど親しい6人の関係もよくわからない。学生時代の同級生にしては年齢がばらばらだし。登場人物が抱える過去や背景をもう少し丁寧に描いてほしかった。
そして、尊厳死に至る本人と家族の葛藤も多少は描かれているとはいえ、やや物足りない。最後はもちろん観客も涙涙の場面なのだが、釈然としないものが残る。日本ではここまで達観した尊厳死はまだまだ認められないだろう。こういった映画をきっかけに議論が進むことを願う。いつか自分がそういう立場に立つことを考えれば他人事ではないから。
HIN UND WEG
TOUR DE FORCE
95分、ドイツ、2014
監督: クリスティアン・チューベルト、製作: フロリアン・ガレンベルガー、ベンジャミン・ハーマン、脚本: アリアーネ・シュレーダー、撮影: ニョ・テ・チャウ、音楽: ジギ・ミューラー、エゴン・リーデル
出演: フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、ユリア・コーシッツ、ユルゲン・フォーゲル、ミリアム・シュタイ、フォルカー・ブルッフ、ヴィクトリア・マイヤー、ヨハネス・アルマイヤー、ハンネローレ・エルスナー