吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

プリズナーズ

 二時間半近い長尺をまったく飽きさせない。最後まで緊張感が持続する優れたサスペンス映画だ。「灼熱の魂」のドゥニ・ヴィルヌーヴが監督している。

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 郊外の住宅街で幸せに暮らす二つの家族。ひとつは工務店経営者のヒュー・ジャックマン一家、もうひとつはテレンス・ハワード演じる心優しい音楽好きの一家。一家にはそれぞれ二人の子どもがいて、下の子が6歳と7歳の女の子だ。感謝祭を二つの家族が共に楽しくすごしていたある日、その女の子たちが忽然と消える。容疑者アレックス(ポール・ダノ、相変わらずこんな役ばっかり)は直ちに逮捕されたが、10歳程度の知能しかないと判明して釈放される。ヒュー・ジャックマンは警察のやり方が手ぬるい、と担当のロキ刑事(ジェイク・ギレンンホール)に詰め寄るが、アレックスが犯人に違いないと確信するジャックマンはアレックスを誘拐監禁してすさまじい拷問を加える、、、

 ポール・ダノ、見るも無残な目に遭います、気の毒すぎる! いくら犯人っぽいからといって誘拐・監禁・拷問、とは狂気の沙汰。ヒュー・ジャックマンの鬼気迫る演技に見ているほうも怖くなってくる。彼のようなリバタリアンはアメリカ人にはいくらでもいるだろう。確たる証拠もなく犯人に違いないとにらんだ人間を拷問にかける心根は、ブッシュ大統領が実在証明のない「大量破壊兵器」を捜索するためにイラク戦争を始めた顛末に通じる。ヒュー・ジャックマン演じるケラーが信心深いクリスチャンであることもブッシュ大統領と同じ。まさにアメリカが世界で行ってきていることがそのまま再現されているのだ。

 泥酔する神父、迷路、蛇、ホイッスル、少しずつ張られた伏線が最後に見事につながり、回収されていく。あっと驚く結末には戦慄を覚えずにはいられない。優れたサスペンスではあるけれど、すさまじい暴力とあまりの暗さに気分が滅入る。覚悟してご覧あれ。(レンタルDVD)

PRISONERS
153分、アメリカ、2013

監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ、製作: ブロデリック・ジョンソン ほか、脚本: アーロン・グジコウスキ、音楽: ヨハン・ヨハンソン
出演: ヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホールヴィオラ・デイヴィスマリア・ベロテレンス・ハワードメリッサ・レオポール・ダノ