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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

おまえうまそうだな

 草食獣に育てられた肉食獣がひょんなことから草食獣を育てることになり。これは憎しみの連鎖ではなく愛の連鎖。しかし、その愛は互いに葛藤があっての上のことだから、見ていて苦しくなってくる。
 絵柄はシンプルなアニメ作品だけれど、描かれている内容は深い。

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 草食獣に拾われた卵から孵ったティラノサウルスは「ハート」と名付けられてすくすくと育つ。だが大きくなるにつれ、植物がまずくて食べられない。自分の兄弟が美味しそうに見えてたまらなくなる。やがて草食獣の群れを離れたハートは、肉食獣の中でも孤立して一匹狼ならぬ一匹獣として生きていく。そんなある日、目の前で卵から孵った草食獣を見て、「おまえうまそうだな」と一口で食べようとしたハートに、あろうことかその赤ちゃん草食獣が「お父さん!」と呼びかける。「うまそうだな」というのが自分の名前だと思い込んだ、その草食獣を育てる羽目になったハートだった……

 子ども恐竜たちが懸命に大人になろうとして大人の真似をする場面がそれぞれにいじらしい。懸命の努力をして、本来の自分ではないものになろうとするのだ。肉食いは草食いの真似をしてまずい植物を食べ、草食いは肉食いのように強くなろうとする。親と同じようになりたい。親のようになりたい。お母さんが好き、お父さんが好き。でも本当の子どもではないから、決して親のようにはなれない。涙ぐましい努力がいじらしくて泣けてくる。やがて宿命として親との別れがやってくるのが悲しい。

 互いの違いを認め合う素晴らしさを子どもたちにもわかりやすく教えるのがこの映画のテーマなのだろうが、そんなに甘いものではないのだ。草食獣と肉食獣は互いの違いを認め合うことなどできない。共存など決してできない。食うか食われるかの関係なのだから、共存できたとしても、それは餌としての存在でしかない。そんな厳然たる現実を知っている大人が本作を見たら、切なさに涙があふれる。かつてマルクスが資本家階級がいる限り労働者はその搾取に遭うと言った、それ以上に厳しい草食獣と肉食獣の存在。

 子育ての苦労と親の愛に泣き、いじらしい男の子の努力に泣き、親子の別れと再会に泣く。現実はそんなに甘くないんだ。だから、わたしたちはどうしたらいいのだろう。絶望的な現実世界にあっても、わずかな希望にすがりたくなる、異文化・異世界との共存の可能性をわたしは忘れたくない。息子が外国に暮らす今、切実にそう思う。(レンタルDVD)

89分、日本、2010 
監督: 藤森雅也、原作: 宮西達也、脚本: 村上修、じんのひろあき、音楽: 寺嶋民哉
声の出演: 原田知世、加藤清史郎、山口勝平別所哲也