吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

僕だけがいない街

 意外なことに、これは図書館映画だった。主人公は昔の事件を調べるために図書館に行って、新聞の縮刷版を閲覧する。ちゃんとそういうことがわかっているっていうのは賢いね。図書館の使い方を心得ている、という点で図書館オリエンテーションになる映画ではなかろうか。

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 本作の原作は大ヒット漫画で、原作とは主人公の性格がかなり変わっているそうだ。原作ではもっと嫌な人間として描かれているということだが、映画では主人公は実にいい人であり、自己犠牲の精神に満ちていて、自分の特別な才能「リバイバル」を使って過去の殺人事件を未然に防ごうと懸命に努力する。
 主人公藤沼悟が持つ「リバイバル」は、事件が起きる前に突然過去に戻ってしまう、という力を指す。これは本人の意思とは関係なくそうなるために、悟にとってはある意味迷惑な話なのだ。しかしある日、一人暮らしの悟の部屋に田舎から様子を見にやってきた母が殺されるという事件が起き、彼は自分のリバイバル能力を使ってなんとか母の命を救おうとする。今まではほんの少しの時間のみ戻るだけだったのに、母の殺人事件が起こってから、彼は突然小学生に戻ってしまう。すべての原点は小学校の同級生が殺された事件にあるということに気づいた悟は、薄幸の少女たる加代が殺されないように、なんとか彼女を守ろうと懸命に手を尽くす。小学5年生に戻ってしまった悟だが、中身は大人である。大人の視線で同級生たちを眺め、学校を見渡す彼は、真犯人の存在に気づくのだが、、、、、 

 主役の藤原竜也が終始暗い表情をしていて、彼がバイトをしているピザ屋の同僚である可愛い女性(有村架純)に慕われているというのに、いまいちの反応しかしない。それは仕方がないことなのだ。何しろ彼にとって過去は何度も何度も書き換えられてしまうわけで、対人関係にも深入りできない気持ちはよくわかる。

 過去の連続少女殺人事件の真相に迫っていく悟は、傍目には小学生に過ぎない。だが、大人の心をもつ悟が知恵を絞り、勇気を振り絞って、<殺されるはずの少女加代>が殺されないための最大限の努力をするあたりは手に汗握るし、全力で女の子を守る男の子、という典型的なお話には、冒険心と正義感溢れる世の男の子たちの琴線に触れるのではなかろうか(その分、フェミニストの評価は低そう)。

 何度も何度も過去に戻ってしまう展開には、途中で「またかい」という気になってくるし、そんなに何度も過去をやり直したら、主人公のアイデンティティは崩壊しないのか、とか心配になってくるし。そのうえ、母親役の石田ゆり子が若くてきれいすぎて「あんなお母さんいてないでしょ」とか一人突っ込んでおりました。

 過去をやり直せたら、という願望は誰もが持つと思えるし、わたしももちろん持っているけれど、でもそれならどの時点に戻ってやり直したいのかと訊かれたら返答に困る。決して時間は取り戻せない。けれど、時間はいつでも伸び縮みする。数十年も前の出来事がほんの数週間前のことのように思い起こされたり、過去の出来事の順番がアトランダムに思い起こされたり、わたしたちの過去から現在への時間は一直線ではない。この映画のように何度も何度も巻き戻される過去というのは現在を生きる主人公にとっては疲れるだけではないか。結局、何度も過去に戻ってやり直していく、などということは無意味なのだ、とわたしは気づいてしまう。時間は失われるから貴重なのだ。わたしたちは決して過去に戻れないからこそ、今を懸命に生きる。そのことを改めて痛感した作品だった。

 子役は素晴らしい。特に鈴木梨央ちゃんのかわいらしさと独特の「色気」には舌を巻いた。演技力も半端ないし、将来が楽しみというか怖いというか。平川雄一朗監督の演出もよいのだろう。ただし、この監督はテレビ畑の人らしくて、この作品も映画というよりは2時間ドラマっぽかった。
 原作を読んでいるかどうかでかなり評価が分かれそうな作品だ。原作未読のわたしはけっこうおもしろく見ることができた。

120分、日本、2016 
監督: 平川雄一朗、原作: 三部けい、脚本: 後藤法子、撮影: 斑目重友、
音楽: 林ゆうき
出演: 藤原竜也有村架純及川光博鈴木梨央、中川翼、林遣都杉本哲太石田ゆり子