吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

私の恋活ダイアリー

 機関紙編集者クラブ『編集サービス』紙に掲載した映画評のうち、自分のブログにアップしていなかった作品をさらえていくシリーズ」第9弾。

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60歳を超えた主人公ニリ・タルは本作の監督でもある。自身の恋人探しを記録するドキュメンタリーを思いついたニリは、1年半に及ぶ恋活(こいかつ)で70人の男性とデートを重ね、そのうちの何人かの許可を得て、彼らとのデートを撮影した。その集大成が本作である。男探しと作品つくりの一石二鳥狙いというわけか。

 60歳にしてはずいぶんスマートでスタイルのいいニリだが、この歳になるとちょっとぐらい太っているほうが見た目がいい。ニリは痩せすぎて貧相で痛々しい。もともととても美しい人だったのだろう、60代の今も美しいが、派手なミニスカート姿にはちょっと引いてしまう。ましてやウェディングドレス姿は似合わない。それでもニリは意に介さず、年下の男を狩りに出かけるのである。出会系サイトに登録して修正写真を掲載し、メールが来るのを待つ。

 そんなニリは同じ男と3度の結婚離婚を経験している。最後の離婚から10年が過ぎて、「このまま歳をとって死んでいくのはいやだ」と新たなパートナー探しを始めたのだ。

「どこから来たの」「リッダよ」という台詞にわたしは日本赤軍のリッダ闘争(テルアビブ空港乱射事件)を思い出してドキッとする。防空壕を改造した家に住む男性が登場すると、「ああ、ここは戦地なんだ」と実感する。イスラエルといえば、アラブ人との対立抜きには語ることができない、建国以来硝煙の匂いが消えない国だという印象が強い。だが当たり前のことだが、イスラエル人だっていろんな人がいて、多種多様な文化を享受し、豪勢なレジャーを楽しむ人々がいるのだ。恋活に夢中になる中高年がゾロゾロ登場したって不思議ではない。

 それにしても、60代の女たちはあけすけだ。ナンパのためのクルーズで「コンドーム持ってきたわよ」とおしゃべりに花が咲く。ニリのデート映像では男たちとの会話や食事の場面は登場しても、二人のベッドインは微妙に伏せられている。どこまでも飽くなき男性探訪は、彼らとの会話を通してニリが自分を見つめなおす旅。いや、ニリの「自分好き度」はなかなかのもの。そもそもこういう自撮り作家は日本では現れにくいのではなかろうか。元気なおば(あ)さんたちを見て、日本の女性も見習うべし。 

 ニリの現在の恋活を追うよりも、これまでの同じ男との三度の結婚と三度の離婚を映画化するほうがよほどドラマティックだろうに、と思うのはわたし一人ではあるまい。政治問題も軍事問題も一切登場しないイスラエル映画、これはイスラエル多様性を垣間見ることができた点で収穫であった。

SIXTY AND THE CITY
70分、イスラエル、2010 
監督: ニリ・タル 
出演: ニリ・タル