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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

オデッセイ

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 1週間前にこの映画を観て以来、ドナ・サマーの"Hot Stuff" が脳内で無限ループしている。

 

 原題は「火星の人」。ネットで公開され、あっという間に大ヒットした小説を原作とする。

 火星にたった一人取り残されたマークの視点でみれば、この物語は「ロビンソン・クルーソー」である。彼を救出しにいく人々の視点で見れば「プライベート・ライアン」。監督自身が「ロビンソン・クルーソー」の映画を作ろうとしたと言っているらしいので、そういう映画であるが、火星の孤独な人という部分がそれほど多くないのは、マット・デイモンばかり一人で登場する場面が続くと、映画的にはしんどいと思った由。

 さて物語は。火星探索隊のクルーであるマーク(マット・デイモン)は、火星の大嵐に巻き込まれて死んだと思われていたが、実は生きていたのであった。「こんなところで死んでたまるか」と、次の火星探索隊がやってくる4年後まで一人で生き延びる決意をする。もうこの時点で、この人の楽観的な気性とかめげない性格に拍手喝采である。
 で、彼が植物学者であることがサバイバルにとってなによりの力になる。彼は残されたジャガイモを栽培しようとするのである。このあたり、映画の演出は実にリズミカルで、かつ背景に流れる70年代ディスコ・ミュージックが最高にノリがよく、マークの楽天的な性格とあいまって、「あ、これってコメディやってんね」と気づく。実際、本作はゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で作品賞を獲ってしまったのだ!
 物語は近未来のはずだが、現在のリアルな物語のように違和感なく思えるところは、実録もののリアリティがあってよい。原作者も言っているが、この作品はできる限りリアリティを持つように計算したという。また、映画化に当たってはNASAが全面協力しているために、非常にリアルな状況が撮影できた。

 ドナ・サマーの「ホット・スタッフ」が流れる場面が最高にノリノリだった。映画館の座席に座りながら思わず歌って踊りそうになったよ! マット・デイモン扮するマークもモービルを運転しながらリズムをとっていたし。この映画はこの調子で、全編に70年代の音楽が流れるところがわれわれ世代には涙がちょちょぎれるほどうれしい。ABBAのダンシング・クイーンなんて、もうほんまに歌いだしそうになって自分の口を閉ざしておくのに苦労したわ(笑)。

 この映画を見ているうちに、「プライベート・ライアン」を思い出した。マット・デイモンはかつてライアン二等兵を演じたのだ。第2次世界大戦のヨーロッパ戦線でライアン二等兵一人をを助けるために多くの犠牲が生じた。彼を助けるために隊長であるトム・ハンクスは死んだではないか。あ、それでは本作のマークを助けるためにやっぱり隊長がっ? と、ハラハラドキドキしてしまったのだが、さてその結果は。。。 

 たった一人でサバイバルしようとする男の話がいつのまにか彼を助けるための仲間の団結の物語へと変わっていく点は、好ましい。人は誰も一人では生きていけないし、一人で生きているわけでもない。ただし、この物語のように、自力でなんとかしようとする人間の心意気は素晴らしく、それがあったからこそ仲間も彼を助けようとするわけだ。いつでも他人の助力ばかりを願ってただ待っているだけの人間には、結局助けなんかこないのだ。

 「70億人が彼の帰りを待っている」という惹句を見聞きするにつけ、この70億人からはみ出す人々の存在を思わずにはいられない。かつて、天皇の病気の折には「日本人全員がただただ陛下の回復を祈り、歌舞音曲も控えている」というような報道管制がなされたが、とんでもなく間違いであったように、また、「全世界注目のオリンピック中継」なんてものをここ十数年びた1分もテレビで見ていないわたしのような人間にとって、そのような同調圧力は不快でしかない。

 しかし、そのような同調圧力911後のアメリカ社会にも見られた)も含め、あらゆる意味でアメリカ人が大好きな映画である。アカデミー賞、とるんじゃない?(同じことを「ブリッジ・オブ・スパイ」でも書いたな(;^_^A)

THE MARTIAN
142分、アメリカ、2015 
監督: リドリー・スコット、製作: サイモン・キンバーグほか、原作: アンディ・ウィアー『火星の人』、脚本: ドリュー・ゴダード、撮影: ダリウス・ウォルスキー 、音楽: ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演: マット・デイモンジェシカ・チャステインクリステン・ウィグジェフ・ダニエルズマイケル・ペーニャショーン・ビーンキウェテル・イジョフォー