安楽死(尊厳死)の問題をこれほど軽やかに描いた作品はなかなかないだろう。まあ、「みなさん、さようなら」(2003年、ドゥニ・アルカン監督)があったけど。西洋人の発想はやはり東洋人(仏教徒)とは違うということをまざまざと感じた一作だった。この映画はイスラエルの作品なので、ユダヤ教徒の話なのだろうけれど、死生観はやはり西洋人のそれだと感じる。つまり、「人間の身体は機械のようなもので、精神(理性)がそれに勝る(支配する、統御する)」という発想だ。デカルト以来の西洋近代の思想そのままなので、やはりそうか、と思ってしまった。
さて物語は。エルサレムの老人ホームで暮らす発明好きの男が安楽死装置を作ったばかりに巻き起こる珍騒動を描いたコメディ。末期の患者を次々と安楽死させていく男は、ついに妻が認知症になったらしいので「今に自分が自分でなくなる。今のうちに死にたい」という願望を聞き入れるかどうかという瀬戸際に立たされる。
以下、ネタばれ
で、結局妻を安楽死させるのだが、それが釈然としない。あんな状態で死なせるなんて、安楽死じゃないやろそれは。単なる姥捨て山じゃないのか。さまざまに疑問符が頭の中を駆け巡る。わたしの母が認知症になって何年も経つが、それでも日々いろんな楽しみがあって本人はそれなりに機嫌よく生きている。たまには「最近、さっぱりわけがわからなくなってきた。もう死にたいわ」とつぶやいていることもあるが、それを真に受けて死なせてやるのが人情なのか?
安楽死に対する安易で肯定的なこの映画には賛同しかねるのだが、これがイスラエルで大ヒットということのほうがよっぽど考えさせられる。
MITA TOVA
93分、イスラエル、2014
監督・脚本: シャロン・マイモン、タル・グラニット、音楽: アヴィ・ベレリ
出演: ゼーヴ・リヴァシュ、レヴァーナ・フィンケルシュタイン、アリサ・ローゼン