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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

みつばちの大地

f:id:ginyu:20151025034452j:plain マークス・イムホーフ監督の生家は果樹園農家。マークス少年にとって蜂は身近な存在だった。しかしここ10年ほど、蜜蜂の大量死が世界的に問題になっている。この映画は蜜蜂の死の原因を探るとともに、養蜂の実態をえぐるドキュメンタリーである。

 もはや蜂の大量死の原因が農薬などの化学物質にあることはいろんな報道で知られているため、この映画で知られざる真実を知った、というような新鮮な驚きはない。それでも、蜂の巣箱や蜂のダンス、蜂の生態を極限までクローズアップした映像には迫力がある。

 アメリカのアーモンド栽培農家の大量生産ぶりには圧倒された。こんなふうに機械化して収穫していたのか! 桁違いに大量に植えられているアーモンドの樹を見ていると、もはや農業という感じがしない。そのアーモンドの実を収穫するためにも蜂による受粉が必要だ。蜂がいなくなるとアーモンドも収穫できなくなる。

 アメリカの養蜂家とヨーロッパの養蜂家の発言に国民性の違いを見る。アメリカの養蜂家は「巣箱一つでいくらの儲け。これだけあれば全部で●●ドル」と計算する。「われわれは資本家(資本主義者?)だからね」という。蜂への愛情よりも蜂を金の成る虫としか見ていないような印象を受けて嫌な感じだ。もっと自然への畏敬の念を持ってほしいと思ってしまう。一方、ヨーロッパの養蜂家は「蜂に刺されて痛い思いをして、養蜂なんか嫌だと思う。でも先祖たちもずっと蜂に刺されても我慢してきたんだ。自分も我慢する」という言葉になんだかいじらしいものを感じる。

 もちろんこの現状を手をこまねて見ているだけではなく、研究者たちが「ノアの箱舟プロジェクト」を始めている。これが奏功するのかどうかに人類の未来がかかっている。どうかうまくいって!と祈るような気持ちになる。

 蜂の生態系を人工的に調整してでも蜂蜜を奪い続けてきた人類に、蜂がしっぺ返しをしているのかもしれない。これほど見事に組織だった集団を作る蜂は人間よりも賢いのではないかと思えるほどだ。人類は知恵を付けたが、自分たちだけが知恵を持っていると思い込んでいるのではないか。中国では文化大革命時代に、穀物を食べる雀を大量に殺した。その結果、虫が異常発生したので今度は殺虫剤を散布した。結果は蜜蜂の死。今や受粉をミツバチに頼れず、人力で行っているという。

 「蜂が絶滅すれば人類も四年後に絶滅する」と言ったというアインシュタインの警告をもっと深刻に受け止める必要がある、と震撼した映画だった。

MORE THAN HONEY
91分、ドイツ/オーストリア/スイス、2012 
監督・脚本: マークス・イムホーフ 、製作: トマス・クフス ほか、撮影: ヨーク・イェシェル 、アッティラ・ボア
音楽: ピーター・シェラー