吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ロンドン・リバー

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 イギリスのとある島で農業に勤しむ主婦エリザベスには一人娘がいて、今はロンドンに住んでいる。エリザベスはテレビニュースでロンドンでの連続テロを知る。その日から娘と連絡がとれなくなり、もしやと心配になってエリザベスはロンドンの娘の住所に向かう。娘のアパートがイスラム移民街にあることに驚くが、家主に話をして部屋に入れてもらう。
 いっぽう、アフリカ出身のオスマンはフランスで森林労働者として働いていたが、息子の行方を捜してロンドンにやってきた。
 そんなエリザベスとオスマンがロンドンで出会い、ともに子どもが行方不明になっていることを知る。さらに衝撃的なことに、実は彼らの娘と息子は恋人どうしで、一緒に暮らしていたのだった。娘が黒人のイスラム教徒にそそのかされてテロリストになったのではないかと恐れおののくエリザベス。オスマンに対してもよそよそしい態度をとるが、、、、


 娘の安否を気遣う母と、息子の消息を知りたい父。二人の心理がとても丁寧にゆっくりと描かれていく。とりわけ映画はエリザベスの視点に立っていると思えるのはわたし自身が母親だからだろう。オスマンは漆黒の肌をしたレゲエ仙人のようないでたちで、杖をついて歩く姿は修行僧にも見える。エリザベスはどっぷり太った中年の白人。まったく外見が異なる二人は、出会ってすぐには打ち解けない。オスマンが差し出す手を握り返さないエリザベスはあからさまにオスマンに対する警戒心を見せる。
 警察に行方不明者の捜索願を出すが、二人とも警官に「あなたは娘(息子)のことを知らないのですか」と聞き返される。そうだ、二人とも実は子どものことを知っていなかった。何を考えていたのか、何をしようとしていたのか、全然知らない。いくら自分が生み育てた子どもであっても遠く離れてしまえば、もう何をしているのかわからない。そうよ、そういうもんだわ。こんなに便利な世の中になって、外国にいるわが子にもメールが届き、スカイプで話をできるというのに、それでもやっぱり連絡がつかなくてイライラすることはいくらでもある。 

 相容れない他者と思われたオスマンに対して徐々に心を開いていくエリザベスの様子がゆっくりと描かれ、それはとても好ましい。と同時に、子どもたちの安否がわからず不安が募る様子が観客に深く伝わってくる。あまりカットを割らずにゆっくりと回るカメラは、徐々に親たちの不安を写し取っていく。その嘆きもその安堵も観客にじっくりと効いてくるのだが、やがて真相が明らかになると、その悲しみも頂点に達する。

 キリスト教徒とムスリムとの出会いと別れを描いてしみじみと魅せる、こんな佳作が劇場未公開とはもったいない。出会うはずのない他者との溝を埋めるのがこれほどに大きな犠牲を伴うのならば、9.11以後を生きるわたしたちはますます混迷の中をさまようしかないのかもしれない。(レンタルDVD)

LONDON RIVER
88分、イギリス/フランス/アルジェリア、2009 
監督: ラシッド・ブシャール、製作: ジャン・ブレア、脚本: ラシッド・ブシャール、ゾエ・ガレロン、オリヴィエ・ローレル 、音楽: アルマン・アマール
出演: ブレンダ・ブレシン、ソティギ・クヤテ、フランシス・マギー、サミ・ブアジラ