吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

柳と風

柳と風

 キアロスタミ監督の「友達のうちはどこ」にそっくりだと思いながら見ていて、最後のクレジットを見て納得。やっぱりキアロスタミが脚本を書いていた。 

 誤って学校の窓ガラスを割ってしまった少年が、弁償を命じられて悪戦苦闘する話。たったそれだけのことなのに、何にもお金がかかっていないのに、スリルに満ちた映画はできるのだ。これぞ映画の原点のような物語。


 転校生がやってきた小学校が舞台。その転校生が主人公かと思いきや、いつの間にか別の少年の物語にすり替わっている。そのあたりの不可思議さがなんともいえず面白い。ガラスを割ってしまった少年が情けない八の字眉をしていて、イラン人というよりフランス人みたいな顔をしているところがまた観客の同情をそそる。つまり、きりっとした顔をしていないのだ。大丈夫かいな、この子。と観客は少年の顔を見ているだけで不安になる。

 ガラスを弁償しないと授業を受けさせないと脅す教師はなんというひどい先生だ! と憤慨しながら見ていたのだが、それだけではなく、ありとあらゆる場面で「なんでやねん」と一人画面に突っ込みを入れながら見てしまう。それほどこの情けない顔の少年には艱難辛苦が降り注ぐのだ。父親にガラス代を出してほしいと交渉してみるが「そんな金はない」とにべもなくはねつけられ、それでもなんとか金を工面してやっとの思いでガラス屋に行けば、その店主である爺さんは年端もいかない少年に自分でガラスを入れ替えろとやり方を説明する。「なんでガラス屋がガラスをはめてくれないわけ?!」と身悶え怒りに震えるわたくし。なんてかわいそうなことをするのよ、人非人!と叫び荒れ狂いそうになりながらギリギリと歯軋りしてもう目も心も画面に釘付け。

 どうにかガラスを買ったのはいいけれど、強風吹きすさぶ草原をはかなげにガラスを運ぶ少年一人。ああ、なんという過酷な運命。ガラスが割れたらどうするのよ! もうこの先はこの少年の行く手に待ち構える試練を目を開けては見ていられません。

 ガラスを入れ替える期限は切られている。ガラス屋に支払えるギリギリの金額のお金しか持っていない少年の、閉店までの刻一刻と迫る時間との闘い。このワンシチュエーションの緊迫感に心打たれる観客は多いだろう。必見です、必見。(レンタルDVD)

WILLOW AND WIND

85分、イラン/日本、1999

監督: モハマッド=アリ・タレビ、脚本: アッバス・キアロスタミ

出演: ハディ・アリプール、アミール・ジャファンダ、マジッド・アリプール