吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

私が愛した大統領

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 史上ただひとり4選された大統領フランクリン・デラノ・ルーズベルトの従妹であり愛人であったデイジーの日記を元に再現する、大統領の秘められた日々。デイジーが亡くなったときに見つかった日記によって、ルーズベルト大統領の秘密の恋愛が明らかになった。1930年代当時の周囲もマスコミも事実を知っていても決して漏らすことはなかったのだという。

 ルーズベルト大統領といえばニューディール政策で有名で、中学生のときに初めて読んだアメリカ現代史の新書に詳しくそのことが書かれていたのが強く印象に残っている。わたしにとっては初めて知ったアメリカ大統領、という意味でもこの映画は興味深かった。だが、彼が重度の身体障害者で車椅子生活であったことはほとんど知られていない。テレビのない時代だからそのことは隠し通すことができたのだろうが、障害のあることが大統領にとっては大きなスティグマとして認識されていた、ということなのだろう。障碍者差別の厳しい時代が思いやられる。

 

 大統領として多忙な日々を過ごすルーズベルトは、ある日従妹のデイジーを執務室に呼ぶ。その日から、デイジーと大統領との密やかな大人の恋が始まった。初めは二人で野山をドライブするのが何よりの楽しみだった。車椅子生活者であるが車の運転はできたんだ、と驚いたが、大統領自らが運転して、楽しそうだ。後ろにぴったりと護衛車が付いてくるのが可笑しい。やがてその護衛を大統領が追い払ってしまう日が来る。その日が二人が深い関係になったときなのだろう。この映画は大統領の恋愛を慎ましく描くために、そもそもこの二人がほんとうに肉体関係をもっていたのかどうかさえわからないほどほのめかされている。デイジーの日記を原作とするゆえ、彼女の視点は大統領への愛情に満ちていて、激務の大統領を癒すことができるのは自分だけだという自負に溢れている。ローラ・リニーのはにかんだ笑顔がさわやかで愛らしい。この人はおばさんになってもとても可愛い。いっぽう、大統領を演じているのがビル・マーレイだったとは最後まで気づかなかった。ビル・マーレイ、すっかりおじいさんになってしまっているのでわからなかった。

 映画のハイライトは第二次世界大戦間近となった英国からジョージ6世夫妻を大統領私邸に招く場面。長い任期中のいろんなエピソードを描かず、この場面に集約させたことが本作のよさだ。アメリカの後押しが必要なイギリスにとって重要な外交官の役目を負って渡米したジョージ6世を、ルーズベルトはアメリカ式のやりかたで歓迎する。しかしここで米英の文化の差が出てしまうのが興味深い。ホットドッグひとつで大騒ぎになるところが面白いのだ。

  

 ジョージ6世の妻エリザベス王妃の顔に品がないのがいやだ。イギリス映画なんだから、もうちょっと自国の王妃に敬意を払ってもよさそうなものなのに。「英国王のスピーチ」に比べると、国王夫妻のちょっとした諍いや、王妃の辛らつな物言いが目立つ。国王夫妻もごく普通の夫婦と同じく、頼りない夫の尻を妻がたたく、という状況がしっかり描かれている。「英国王のスピーチ」のときもそのような光景が描かれていはいたが、ヘレナ・ボーナム・カーターが王妃を演じるとなんだか愛らしくて憎めなかったが、 本作のオリヴィア・コールマンは単に亭主に毒づくおばちゃんにしか見えない。

 

 ジョージ6世の接待を通じて、デイジーは自分が日陰者であることを思い知らされ、つらい思いをする。別居中とはいえルーズベルトにはれっきとした妻がいて、いまだに彼に大きな支配力を及ぼす母もいる。ルーズベルトは強い母、強い妻、強い秘書に囲まれて、「弱い女」を求めていたのだろう。だから彼がデイジーに求めたものは<決して彼を支配しないこと>だったのだ。ルーズベルトの女癖の悪さも発覚し、デイジーはさまざまに傷ついていく。それでも彼女は最後まで大統領を愛した。

 優しくて風のようにさわやかで、奥ゆかしい愛情で大統領という権力者を癒す女。そんな都合のいい女、いまどきいません!

 

 屋敷内や屋外の広々とした様を映し出す撮影が心地よくてゆったりと見ることができたし、英国王との会話もよくできていたが、デイジーの心中を推し量るにあまりにかわいそうな映画だった。(レンタルDVD)

 

HYDE PARK ON HUDSON

94分、イギリス、2012

監督: ロジャー・ミッシェル、製作: ケヴィン・ローダー、脚本: リチャード・ネルソン、音楽: ジェレミー・サムズ

出演: ビル・マーレイ フランクリン・デラノ・ルーズベルト

ローラ・リニーサミュエル・ウェスト、オリヴィア・コールマン、エIリザベス・マーヴェル、エリザベス・ウィルソン、エレノア・ブロン、オリヴィア・ウィリアムズ