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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ソウォン/願い

映画

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 韓国で2008年に実際に起きた少女強姦傷害事件を題材にする重い映画だけに、「いい映画だった」と手放しで評価することはためらわれる。「ペパーミント・キャンディ」から15年、主役ソル・ギョングは中年になり、渋みが出てきた。彼の自然な演技といい、子役の達者で痛々しい演技といい、母親役オム・ジウォンのやつれた美しさといい、役者がみな光っている。不思議なことに事件が起きる前の一家の様子は白々しいほど明るく楽しげで、あまり心惹かれない。母親のオム・ジウォンは女優とは思えない「ふつうのおばちゃん」ぽい。ところが、娘ソウォンが暴行されてからの、悲嘆にくれるオム・ジウォンが美しく色っぽいのはなぜだろう。

 

 この手の事件の場合、被害者にはまったく落ち度がない。悪いのはひたすら加害者であり、被害者は世間の同情を買うことはあっても非難されることなどないはずだ。しかし、事件の残虐性、女の子に加えられた性的暴力という事実の前に、被害者一家こそが自分たちを責めたり世間から逃げ隠れせざるをえなくなる。

 

 唯一の救いはソォンが襲われる場面が具体的に描かれていないこと。グロい表現が多い韓国映画ではそれを恐れていたのだが、その点はほっとした。そして大きな希望は、母親たちの友情が被害者の母を救うこと。事件直後は疑心暗鬼が渦巻き、友情にもヒビが入るが、差し入れの手作り料理が母たちの心の溝を埋めるシーンは思わず涙。事件が起きる前の人間関係の描写が細やかなので、「あのときあんなことを言っていた人が事件後は、、、」といった豹変ぶりや狼狽が際立つ。そして、傷ついたのは被害者一家だけではなく、周囲の人々もまた傷つき、気を遣っていたことが判明していく過程が感動的だ。ちょっと抜けた感じのする父の勤務先の工場長が、ソウォン一家のために治療費のカンパを掻き集めるべく奔走するのも心に響く場面。

 

 男親であるソル・ギョングは事件に傷ついた娘が大人の男を見るだけで怯えるため、娘に近づくこともできない。そんなとき、彼がどうやって娘に近づこうとしたのか、その方法がいじらしくまた泣ける。

 

 犯人が逮捕され、やがて裁判の場面になると途端に緊張感が高まる。犯人は「泥酔していたので記憶に無い」としれっと証言する。「こんなやつは死刑にしてしまえ」と死刑反対論者のわたしでも心の中で叫んでしまった。犯人への憎しみや怒りが渦巻くが、それ以上に、ソウォン自身が徐々にではあれ、けなげに前を向いていく姿に心が洗われる。一生残る傷を身体に負わされた彼女のこれからの人生の過酷さに震えがくるけれど、それでもソォン(希望)という名前のとおり、少しでも光に向かって歩いていくその姿に別の震撼を覚える。キャッチコピーは「幸せに生きていく それが最大の復讐」。

 

 演出が細やかでリアルなので、観客がすっと映画と一体化できる、すぐれた作品。

分、韓国、2013

監督: イ・ジュンイク、脚本: チョ・ジュンフン、キム・ジヘ、音楽:パン・ジュンソク

出演: ソル・ギョング、オム・ジウォン、イ・レ ソウォン、キム・ヘス