吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

超高速!参勤交代

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 期待していなかった分、面白かった。悪役はどこまでも憎たらしく、善良な家老はどこまでも吝嗇家で、人の好い殿様は民のことをいつも案じて、自分は漬物さえ食べればよいと慎ましい。謎の抜け忍は豪快なダイハード男で、品の無い飯盛り女は実は心優しく気の強い美女。登場人物はことごとくキャラが立っていて、コメディかくあるべし、という楽しさ。

  時代は徳川吉宗が8代将軍だったころ、幕府の老中から磐木の小藩イジメの参勤交代命令が出された。ここは現在の福島県いわき市あたり。どんなに頑張っても8日はかかるという参勤交代を実質4日でやり遂げよという指令が江戸の老中松平信祝から届いたからさあ大変。おりしも参勤交代から戻ったばかりで資金も無い。家老の相馬兼嗣が知恵を絞り、策を練ってなんとか役人の目を誤魔化しながら江戸まで大名行列をやり遂げようとする。そんな時になぜか現れた謎の抜け忍・雲隠段蔵が裏道を教えてくれるという。さて、貧乏藩の大名行列は刻限までに江戸城に出仕できるのだろうか?!

 もう、時代考証なんか無茶苦茶。面白ければそれでいい。そして、舞台を福島県の小藩に設定した、というのはもちろん原発事故に苦しむ福島県へのエールであり、国の政策の犠牲になってきた福島県民の中央行政批判を代弁している。 

 藩主・内藤政醇が絵に描いたような善政を布く殿様なので、領民にも慕われている。意外と純情なので、気に入った女にもすぐに手を出したりはしない。お色気の部分はフカキョンが担っているんだけど、「この女優、誰だろう」とずっと考えていて、深田恭子だとは全然気づかなかった。色っぽくて綺麗になったねぇ。大人の色気が出せるような女優に成長しているわ、驚いた。 

 とてもわかりやすい話で、ひねりはほとんど無いが、必死に走りに走った藩士たちが最後の最後に刻限に間に合わないとわかったときにとった方法が笑える。そんな手があったか! 

 ま、あえて言わせてもらえば、そもそも無理難題を吹っかけられた「参勤交代」というミッションそのものへの批判や造反は許されないわけで、そこを根本的に問い直すことを藩士たちがしないことが不満といえば不満。まあ、無理なんでしょうね、それは。それができればそれこそ革命なわけで。革命を敢行できなければどうするか。ミッションを斜めにずらしてみる。ミッションを換骨奪胎する。そういう、「抜け道」のような方法で彼らはお上の無理難題をすり抜けるわけだ。つまり、階級闘争をするわけではなく、お上に逆らっていないように見せかけて実はズルをする。これは一種のサボタージュといえるわけだが、サボっているわけではなく、必死で走っているのだから、これはこれで大変しんどいことである。やはり頑張る人にはエールを送りたくなるのが人情。震災後の福島県にエールを送りつつ、この小藩の涙ぐましい努力を称えたい。中央政府には根底的な「反抗」を!

 家族そろって笑って楽しめる時代劇。ディズニーもいいけど邦画もね。

(機関紙編集者クラブ「編集サービス」http://club2010.sakura.ne.jp/service.htmlのために書いたものの元ネタです)

119分、日本、2014

監督: 本木克英、脚本: 土橋章宏

出演: 佐々木蔵之介深田恭子伊原剛志寺脇康文上地雄輔石橋蓮司陣内孝則、西村雅彦