吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ある愛へと続く旅

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 ペネロペ・クルスの老けメークのすさまじさには驚いた。ペネロペ・クルスがいつもなら暑苦しいのだけれど、この映画では若いころは可愛く、歳とってからは渋くてなかなかよかった。「イントゥ・ザ・ワイルド」の好青年エミール・ハーシュくんがこの映画でもやっぱり好青年で、かなり可愛らしくて、内面の苦悩を抱えて彷徨する様はいたく同情をそそる。

 物語はイタリアに住む中年女性ジェンマのところにサラエボに住む旧友から電話がかかってくるところから始まる。ジェンマは学生時代、内戦勃発前のサラエボに留学していたのだ。今はローマで再婚した夫と前夫の息子の三人で暮すジェンマに、「(亡夫でカメラマンだった)ディエゴの写真展を開くので、これを見にこないか」という誘いの電話だった。招待に応えて息子を連れて思い出の地サラエボにやって来たジェンマ、この旅で彼女は愛の真実を知ることになる…

 

 内戦が始まり虐殺の血塗れた町へと変貌するかつてのサラエボに住む若く美しいジェンマのラブストーリーと、20年後の現在のジェンマの旅とが交互に描かれる。そのジェンマの落差に驚いてしまう。若いジェンマは生き生きと美しく、アメリカからやってきた年下のカメラマンと恋に落ち、結婚する。幸せな新婚生活のはずが、ジェンマは流産し、妊娠できない身体とわかってからはどうしても子どもがほしい、と代理母を探すことになる。ペネロペ・クルスが伸びやかな裸体を晒す物語の前半は、間もなく戦火にまみれるサラエボのつかの間の平和と幸せを楽しげに描く。それだけに、突然始まった戦闘がいっそう悲劇性を帯びる。 

 考えてみればジェンマも夫ディエゴも外国人なのだから、戦火のサラエボから脱出すればいいだけのこと。彼らには帰る故郷がある。しかしディエゴはカメラマンとして、戦時下のサラエボを取材する道を選んだ。それが過酷な結果に終わるとは予想していなかったのではなかろうか。もちろん戦争カメラマンなのだから、命を落とすこともありえるだろう。彼は戦場カメラマンとして覚悟していた以上の過酷な状況に自らが陥ることに耐えられなかった。戦争の悲劇はさまざまな形で人々に傷を残していく。 反抗期の息子の養育に悩むジェンマに、代理母だった女性が語る秘密。衝撃の事実がもたらされる前に本作にはいろいろ伏線がある。

 本作もまた間違いなく反戦映画である。 

 どんなに傷ついても乗り越えられる力を与えてくれるもの、それが「愛」。ジェンマがたどり着いた「愛」の感慨に浸るラスト。最後の結論に至る心理的な葛藤がきちんと描かれていない甘さを感じる演出ではあるけれど、20年に及ぶ一人の女性の愛の旅を描く壮大な物語であった。(レンタルDVD)

VENUTO AL MONDO

129分、イタリア/スペイン、2012

製作・監督・脚本: セルジオ・カステリット、脚本・原作: マルガレート・マッツァンティーニ、音楽: エドゥアルド・クルス

出演: ペネロペ・クルスエミール・ハーシュ、アドナン・ハスコヴィッチ、サーデット・アクソイ、ピエトロ・カステリット、ジェーン・バーキン