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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

黒いスーツを着た男

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 アラン・ドロンの再来と騒がれているラファエル・ペルソナ目当てで見に行った本作、なかなかどうして優れた脚本の見ごたえある作品だった。

 原題は「三つの世界」。三つの世界とは、主人公アランの住む経済界、事故の目撃者ジュリエットの住む学問界、被害者ヴェラの住む不法移民の世界。つまり、「金と上昇志向」「言葉と論理」「社会に否定されたもの」という三つの世界の人々が、決して交わるはずのなかった人生なのに突発的な事故のために交点を持ち、それぞれの人生が狂い始めるという暗黒物語。 

 懸命な働き振りを社長に認められた外車販売の営業マン、アランは、10日後に社長の娘と結婚することになっていた。幸せの絶頂にある彼は、会社の同僚2人と酔ってバカ騒ぎをしたあげくに、人を轢いてしまう。同僚たちに「逃げろ」とそそのかされてその場を去るが、目撃者がいた。目撃したのは医学を勉強中のジュリエット。彼女は救急車を呼び、遺留品から家族を探し当てて被害者の妻ヴェラと知り合うことになる。ヴェラたち夫婦はモルドヴァからの不法移民だった。

 この事故によって引き合わされたアラン、ジュリエット、ヴェラ、三人三様の人生模様が変化し、狂いを見せ始める。もちろん一番悪いのはひき逃げをしたアランだが、彼も良心の呵責に耐えかねる、ごく普通の人間だ。決して悪人ではないのだが、一度逃げると決めてしまったために、泥沼にはまっていく。彼が下層階級出身であり、社長令嬢との結婚で階層を上昇することができる、その幸せを決して手放したくない事情が、彼の母親を登場させることで細やかに描かれる。 

 ジュリエットは恋人がいて妊娠中だが、一緒に暮らすことに踏み切れないでいる。恋人との関係に不確かなものを感じているのだ。そのこともまた的確に短い台詞や状況説明で観客に伝えている。医学生であるジュリエットと、大学で哲学を教えている恋人、というインテリカップル特有の悩みや不安をさりげなく散りばめた脚本が見事。 

 また一方、ヴェラの側の状況も、「不法滞在」であるという弱みや、同国人たちの移民コミュニティで強いつながりをもった生活を続けていることも描かれていく。こちらは言葉がわからないだけに、ヴェラと彼女を取り巻く男たちの関係が肉親なのか単なる同郷人なのかよくわからない。とはいえ、彼らのフランスでの立場や「フランス人からどう見えるか」といった「異邦人としてまなざされる」存在であることも容易に伝わる。 

 ひき逃げ犯、目撃者、被害者、この三者は意外に早くそれぞれの存在を知ってしまう。だが、警察に知らせることなくことを済ませようとしたジュリエットの躊躇いによって、事態はいっそうややこしさを増していく。なぜすぐに警察に通報しないのか? そこには彼女なりの言い分があることも観客には伝わる。そう、アランがあまりにも美しい男だったから。そして、悪人ではなかったから。彼女は惹かれてしまったのだ。 

 アランを演じたラファエル・ペルソナ、確かに横顔や、やや下方から見た時の雰囲気はアラン・ドロンに似ている。役名もそれを意識したのか? でもね、やっぱりアラン・ドロンほど美しい男はいません。「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンが演じたらぴったりだった本作の主人公だが、ラファエル・ペルソナにはアラン・ドロンほどの強烈な目ぢからがない。ラファエルのほうが顔から受ける印象がやさしいのが特徴か。 

 犯人と被害者の間に立ったジュリエットの弱気や中途半端さがとてもリアルで、物語に説得力を与えている。ひき逃げをそそのかしたアランの同僚を演じたレダ・カテブは「愛について、ある土曜日の面会室」で情けない男の役を演じていた。本作でもやっぱり情けない役で、あの顔ならそういう役しか回ってこないのか、と苦笑。 

 脚本、演出、役者、三拍子そろった良作であり、罪と罰、贖罪を問う深い作品。

TROIS MONDES

101分、フランス/モルドヴァ、2012

監督・脚本: カトリーヌ・コルシニ、製作: ファビエンヌ・ヴォニエ、共同脚本:ブノワ・グラファン、リーズ・マシュブフ、アントワーヌ・ジャクー、音楽: グレゴワール・エッツェル

出演: ラファエル・ペルソナ、クロティルド・エスム、アルタ・ドブロシ、レダ・カテブ、アルバン・オマル