クレヨンしんちゃんの映画を見るのは「嵐を呼ぶ栄光のヤキニクロード」(2003年)以来だ。「オトナ帝国の逆襲以来の傑作」と前評判のよい本作だが、やっぱりわたしにとって最大の名作は「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」(2002年)。それに次ぐのが「オトナ帝国の逆襲」。第1作の「アクション仮面VSハイグレ魔王」の衝撃も忘れがたい。
して、本作の出来はいかがか。もちろんこれは前評判にたがわぬよいできであったことは間違いない。とはいえ、やっぱりオトナ帝国の逆襲にはかなわないのである。うちの長男Y太郎23歳に言わせると、クレしんの映画シリーズは原恵一の呪縛から解き放たれていない、とか。そうかもしれない。
本作は、ロボットに変身させられてしまった野原ひろしが、日本を父権復活の帝国にしようというオヤジの野望から救うというお話。これ、なかなかに深いです。子どもたちには理解できないだろうが、恐るべきクレーマーや在特会のような圧力団体への痛烈な批判皮肉が込められている。
家族から疎んじられて休日の公園に集う世の父親たち。そこにヤンママ集団がベビーカーを押してやってくる。「なによ、あんたたち! 遊具は子どものものでしょ、どきなさいよ!」「タバコ吸っていいと思ってんの!!」と下品に糾弾される。その様子を見ていた秘密結社の領袖・ 鉄拳寺堂勝が怒り狂い、「このままでは日本がダメになる」とわめいて、日本改造計画に着することに…!
しんのすけの父親ひろしがロボットに改造されてしまい、自宅に帰宅するも家族から疎んじられる状況は同情にたえない。ほんとうに情けないよね、父親って。でもそうなってしまったのは、理由があるんだよ。別にえらそうに暴力支配する必要なんかなくて、父親の存在感って、そういうことではないはずなのだ。
この鉄拳寺堂勝って、まるでどこかの国の総理大臣みたいなことを言うので、ぞっとしたね。
いちいち挙げていけばきりが無いぐらいにギャグは満載で、それはそれでとっても面白おかしいが、それ以上にひろしに対するみさえの愛情が仄見えて切なかった。いつも罵詈雑言を浴びせている夫婦も、実は心の底から愛し合っていたんだとわかるさまざまなシーンにジーンとくる。まあ、確かに、喧嘩するほど実は仲がいいというか、相手に対する期待があるだけましかも。うちなんか既に喧嘩もしないわな。
ロボットというダミー存在と記憶、という人間の本質に迫るテーマを内包した本作はかなり深いものを持っているのだが、やはり原恵一監督の作品には一歩及ばなかったようだ。
Y太郎が後日この映画を見に行って感想を一言。「クレヨンしんちゃん史上最高に残酷な映画やな。同じ人格の人物を二人作るってひどい。しかも作られたほうは偽者、どうあがいても本物にはなれない。エグイ話や。最後は捨てられるし」
はー、それにしても、「“ちちゆれ同盟(父よ、勇気で立ち上がれ同盟)”」てか。相変わらず下品です(苦笑)。
97分、日本、2014
監督: 高橋渉 、演出: 池端たかし、原作: 臼井儀人、脚本: 中島かずき、音楽: 荒川敏行、宮崎慎二
声の出演: 矢島晶子、藤原啓治、ならはしみき、こおろぎさとみ、真柴摩利、林玉緒、一龍斎貞友、佐藤智恵、納谷六朗、大和田伸也