吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ジャンゴ 繋がれざる者

 

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 2013年鑑賞作で未掲載の作品をあげていく。

 これは長男Y太郎の大好きなタランティーノの作品、いかにものタンランティーノ節全開。Yと二人で見に行って大いに満足して自宅凱旋しました、という作品。

 巻頭、西部の荒野の広大な風景をバックに「続荒野の用心棒」の主題歌「ジャンゴ」が大音響で劇場内に響き渡ると、それだけでもうツボ。Yと二人、顔を見合わせて笑ってしまった。ほんとにタランティーノってオタクなんだわ。 

 時代は南北戦争勃発の2年前、主人公のジャンゴは黒人奴隷だったけれど、元歯医者いま賞金稼ぎのドイツ人キング・シュルツに買われて自由人となる。根性も腕もぴか一のジャンゴはDr.シュルツとコンビを組んで次々と賞金稼ぎに精を出す。彼の生きる目的は、離れ離れに売り飛ばされた妻ブルームヒルダを見つけること。妻が極悪非道な農場主ムッシュ・キャンディに買われたことを知ったジャンゴとシュルツは、大芝居を打って彼女を買い取る作戦に出るが…。 

 全編タランティーノのこれでもかの演出ぶりが堪能できる楽しい映画。下から舐め上げていくアングル、ここぞという決めポーズにアップ、高まる音楽。く~っ、たまらんこのベタさ。西部劇マカロニ・ウェスタンなんだからとにかく撃ちまくらにゃ。これでもかという血糊の飛び方にも笑ってしまう。もう少し死体を大事にしてほしい。

 

 冷酷な賞金稼ぎでありながら奴隷制を憎む心優しい男、という設定に見事に応えたクリストフ・ヴァルツ、この人の存在感がまたしてもすごい。さすがはアカデミー賞を獲っただけのことはあり。ドクターがリベラルなのはドイツ人だからか? アメリカ南部の習慣にまったく動じない設定もドイツ人らしさが現れている。生ビールの注ぎ方もちゃんとドイツ人らしくヘラを使って二度注ぎ。芸が細かいです。

 

 「イングロリアス・バスターズ」でクリストフ・ヴァルツが震えがくるほど怖かった、その位置を本作ではレオナルド・ディカプリオが占めている。レオちゃんが初めて悪役に挑戦、嬉々として極悪人を演じている。その極悪人に仕える極悪黒人の執事サミュエル・L・ジャクソンがまた典型的にいやらしい黒人を演じていて漫画的である。その道化ぶり、その二重人格ぶりを堪能されたし。 

 いまどきこれほど善悪がはっきりしている登場人物ばかり出てくる映画も珍しい。そのはじけっぷりが天晴れ。レオちゃんとクリストフ・ヴァルツが対峙する場面の緊張感もハンパなくよかった。というわけで、娯楽映画の王道でありました。タランティーノ、大爆発。

 映画を見終わって一晩経って、主題歌「ジャンゴ」が頭の中をエンドレスに流れていた。いや、脳内だけではなかった。Y太郎がYoutubeからダウンロードして流していたので、家じゅうで「ジャンゴォオオ~」が鳴り響いていたのだ。いやこの歌は実によいわ。劇場であれほどの大音響で聞いたのは初めてだし、感動した。歌詞もよし、音曲よし。「フランコ・ネロが出てたんやて」とYに言うと「えっ、どこどこどこ? わかれへんかったなぁ」と興奮しているので、劇場用パンフレットで確認したが、結局よくわからなかった。 

 「ニガー」という台詞が137回も登場しているそうだ。やたら「ニガー」を絶叫していると思ったら、そんなにあったのか、改めて驚いた。これは日本ではテレビ上映できないのではなかろうか。「パルプ・フィクション」が史上最多の ”F●●K” 映画らしいが(281回)、このニガーもすさまじい。今から見ると絶句するほどの黒人虐待がこれでもかとばかりにこの映画で描かれる。口に金属の猿轡のような面をかぶせられている黒人たちの姿を見てトニ・モリスン著『ビラヴド』を思い出した。(追記:Facebookのコメント欄で指摘いただきました。現在では、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」がFワードの世界記録を塗り替えたそうです(笑)。506回だって!)

  この映画は、史実ではありえない黒人の賞金稼ぎを主人公に設定し、黒人の西部劇ヒーローを生んだ。常識をひっくり返すのはお茶の子さいさいのタランティーノらしさがあふれ出ている。しかも、「イングロリアス・バスターズ」よりももっとはっきりと暴力的に復讐を賞賛した。このカタルシスは半端ではない。許しだの和解だのという生易しい言葉はタランティーノの辞書には載っていないのだろう。彼は「歴史の被害者に復讐をさせるのが映画の目的だ」と述べている。暴力映画の目的が本物の暴力の抑止にあるなら、これはこれで素晴らしいことなのかもしれない。

DJANGO UNCHAINED

165分、アメリカ、2012

監督・脚本: クエンティン・タランティーノ、製作: ステイシー・シェアほか

出演: ジェイミー・フォックスクリストフ・ヴァルツレオナルド・ディカプリオケリー・ワシントンサミュエル・L・ジャクソンフランコ・ネロ