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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ウォルト・ディズニーの約束

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 メリー・ポピンズの原作小説を書いた英国人トラヴァース夫人と、その映画化を交渉するディズニーとの丁々発止の交渉を描く、バックステージもの。 

 「メリー・ポピンズは自分の家族の物語だ」と言うトラヴァース夫人の、作品への思い入れは一方(ひとかた)ならぬものがある。そこには子ども時代の彼女の物語が隠されていたのだ。映画はトラヴァース夫人がアメリカにやってきてディズニーの製作陣一同を困らせる現在と、オーストラリア時代の彼女の一家の過去とが並行して語られる。この過去の悲しさが胸に迫る。若く才能に溢れていた父は家族のために銀行員の仕事に就くが、その仕事が性に合わないのだろう。ストレスをためて酒に溺れる彼は、現実を直視することができない夢見る男だったのだ。ファンタジーの世界を生きる父が大好きだった幼いトラヴァースは、父が病んでいく姿に心を痛めていた。若くて美しい母もまた悲しみの人だった。夫の姿に絶望して涙に暮れる母を救いに来たのは母の姉だった。風とともに颯爽と現れて、家中を片付け始めたその人こそ誰あろう、メリー・ポピンズのモデルであった。 

 サラリーマンに向かないダメ男の父をコリン・ファレルが切なく好演。この人が絶望にかられる姿には胸が締め付けられるものがあった。本当は詩人か作家になればよかったのに、何の因果か銀行員に。愛らしい娘たちのために命を削った父が哀れだった。

 この可愛らしい少女時代と裏腹の、年老いてすっかりガミガミばばあになってしまったトラヴァース夫人との落差がすさまじい。エマ・トンプソンの神経質なガミガミ声が頭の中に響いて耳についてしまったくらいだ。新作小説を書かなくなって久しいからとうとう破産状態になっているというのに、まだディズニーからのオファーを断り続ける。いやいや渡米したけれど、全然ヤル気がなくて、作詞作曲のシャーマン兄弟たちにも難癖をつけまくる。やれアニメはだめだの、歌うのはダメとか、ありとあらゆることにいちいち口を出す。そこまでいやみを言われてもウォルト・ディズニーはどうしてもこの作品の映画化にこだわった。なぜなら、それは彼自身が自分の娘に約束したことだったから。トム・ハンクスもいい役をもらったわ。 

 このプライドの高い嫌味女が唯一気に入ったのは、彼女のお付の運転手としてディズニー社から派遣されたラルフ。飄々としたラルフが、英国女の嫌味をさりげなく受け止めて柔らかく受け流す。この二人のやり取りがまた可笑しくて、やがてほろりとさせられる。ポール・ジアマッティ、いい役をもらったわ。

 トラヴァース夫人の服装がおしゃれ。デザインがいい。仕立てのいい服を上品に着こなす中年女性というのは美しい。根性悪の女も綺麗に見える。最後には彼女の胸のうちがわかって、泣かされる。

 

 「メリー・ポピンズ」、実は未見なのだった。ぜひ観たい! 最後の最後にトラヴァース夫人本人の声が流れるので、これは必聴!

SAVING MR. BANKS

126分, アメリカ ,2013

監督: ジョン・リー・ハンコック, 脚本: ケリー・マーセル  ,スー・スミス, 音楽: トーマス・ニューマン 

出演: エマ・トンプソン, トム・ハンクス , ポール・ジアマッティ, ジェイソン・シュワルツマン, リチャード・シャーマン, ブラッドリー・ウィットフォード , コリン・ファレル、キャシー・ベイカー