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吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

映画「立候補」

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 大阪府知事選挙に立候補した泡沫候補たちを追うドキュメンタリー。これは傑作ケッサク。
 2011年11月の大阪府知事大阪市長ダブル選挙に立候補した泡沫候補は4人。その全員のインタビューを映し出すが、なかでも密着取材されているのはなんといってもタレント性の高いマック赤坂だ。
 ついでといってはなんだが、YOUTUBEで180万回近くも政見放送が再生されている外山恒一も登場。外山は意外に真面目で、絵柄的には地味だ。それより映画的に面白いのはマック赤坂。姿形、立ち居振る舞い、すべて映像的な効果を狙って計算されているため、そのままの被写体を撮っていれば監督は一切演出しないですむ。安上がりな人材だ。
 マックは自分の政見放送をホテルの一室で下着姿でリラックスしながら見ている。「自分で見ても面白いんだから、ほかの人が見たら」さぞや面白かろう、と自画自賛している。秘書の桜井という男も面白い関西人で、マックの運転手求人広告を見て時給が高いのにつられて応募したのだという。実際には時給は半額に値切られてしまったが。で、そのまま運転手兼秘書として活躍している。
 マックをめぐる人々のなかで外せない重要人物は息子である。今はマックが設立した貿易会社の社長をしている。この息子が実にシニカルに父を見ている。「なんで真面目に選挙しないのか」と問い詰めたりしているらしいが、父の事は「わかりません。なんで真面目にやらないのか」と首をかしげる。しかしかしげた首はそのままに、ちゃんと父を擁護して、ヤクザのような自民党の取り巻きと対峙しているのが立派だ。
 本作のクライマックスは大阪維新の会選挙カーに乗る橋下徹松井一郎組とのマイク合戦。俺にもしゃべらせろとマックが迫り、橋下が余裕を見せて「マックさんどうぞ」と応える。最後はマックが「大阪をスマイルにしてくださいね~」と橋下たちにエールを送るという「なんじゃそら」という展開にあっけに取られた。しかし、これが現在行われている大阪市長選挙でのマック赤坂羽交い絞め事件への布石であったとは! 今見ると感慨深いものがある3年前の選挙風景だ。

 「帰れコール」に包まれ物を投げられてもめげずにスマイル体操を踊り続けるマック、いったい彼は何者なのか。大阪府知事選挙なのになぜか京都の四条河原町に現れ、街頭宣伝を邪魔しに来る警官に向かって「京都府警はバカ」と罵る。ついに京都府警公安刑事が登場するに至ってはのけぞりそうになった。最近の公安はあんなふうに普通のサラリーマン風になってるのかぁ。

 マック以外の泡沫候補たちもそれぞれに面白いキャラクターである。中村勝候補は謎のおじさんという感じで、インタビューには必ず小学生の娘が付いてくる。年齢的にはおじいちゃんと孫という離れ方なのだが、実の娘だという。ほんまかいな。

 それにしても供託金300万円は異様に高い。国際的に見ても突出している。この国には年齢制限以外は誰もが立候補する権利があると明記した憲法があるというのに、実際には違うのだ。供託金を用意できない人は立候補できない。笑って笑ってあきれてそしてこの国の民主主義というものを考えさせようという映画。面白いだけではなくて深い。


 そうそう、ついでに外山恒一についてひとこと。かの政見放送は震えがくるほど面白い。これほど面白い政見放送を真面目に撮影し通したNHKのカメラマンはプロだと思う。エライ! きっと撮影しながら笑いをこらえるのが大変だったろう。腹筋が断裂したのではないか。これって労災やね。


 わたしが本作を見た翌日、長男Yも映画館へ出かけた。偶然にもプロデューサーの舞台挨拶があったとかで、プロデューサーに質問を投げたそうだ。「マックさんが梅田の立ち飲み屋で焼酎をあおる場面で喉を鳴らしていた音が印象的だったが、あれは現場の音なのかアフレコなのか」と尋ねたところ、「アフレコである。あの場面でアフレコを使った結果、ほかの場面でも次々とアフレコを使わざるをえなくなった」という意味の回答があったという。確かにあの映画では足音などが異様に強調されて印象深くなっている。どうやって録音したのだろうと思ったが、アフレコであったか。


映画「立候補」(2013)
上映時間 100分
製作国 日本
監督: 藤岡利充 
製作: 木野内哲也 
撮影: 木野内哲也 
出演: マック赤坂 
 羽柴誠三秀吉 
 外山恒一