ドイツのトルコ移民の映画には暗いものしかないと思っていたが、これは違う。トルコ移民50年の一家の物語が軽快にユーモラスに語られる。彼らは故郷をもち、故郷に帰りたいという気持ちを抱いているが、実はもう故郷へは帰れないということに気づいてしまう。そんな、故郷喪失の物語は、故郷を恋えば恋うほど故郷へは帰れないという矛盾に気づくロードムービーでもある。
フセインは、トルコからドイツへの100万1人目の移民だった。それから50年。フセインの一家は孫も加えて大家族となっている。子どもたちのうち次男はドイツ人と結婚した。長女の娘はもう大学生。その恋人はなんとイギリス人である。第二次世界大戦後、ヨーロッパの人々のハイブリッドぶりは加速しているように思える。いや実は王族を見てみれば、欧州の王室はみな親戚だったのだ。スペイン王が黒髪ではなく金髪なのも当然で、王妃をフランスやイギリスから娶った例などいくらでもあり、ロシアのエカテリーナ2世はドイツ人だったし、マリー・アントワネットはフランス王妃だがオーストリア人で。だから、民族に分かれていがみ合うこと事態がばかげている、と冷静に考えればわかりそうなもの。しかし現実は理屈どおりにはあらず。国民国家はまさに幻想の共同体だと思い至る。
キリスト教圏とイスラムでは文化がまったく異なるのだから、これは大いなる問題だ。異文化を面白いと思えるかどうかで、その後の人生が変わるだろう。郷に入れば郷に従わざるをえない。と同時に故郷の伝統や文化も大事にしたい。その葛藤が悲喜劇を生む。キリスト像を見てスプラッターホラーと思い込み震え上がる子どもたち、教会ではキリストの肉と血を食すると聞いてさらに恐怖を募らせる。一方でクリスマスをねだってみたり。子どもたちの異文化への反応がストレートで面白い。
人生も残りわずかとなったおじいちゃんは、突然家族全員を連れて田舎に帰ると言い出す。反対し文句を言う息子や孫たちを尻目にいざ出発、トルコのはるか西部にある故郷アナトリアへの三千キロの旅が始まった。珍道中には涙あり笑いありの文字通りの悲喜劇が待ち受けていた…
教訓じみてもいず、故郷喪失者の思いをことさらに称揚も特別視もせず、「これが今の移民の姿」として観客の前に素直に提示してみせたところがよかった。
ALMANYA - WILLKOMMEN IN DEUTSCHLAND
101分、 ドイツ/トルコ、2011
監督: ヤセミン・サムデレリ 、脚本: ヤセミン・サムデレリ、ネスリン・サムデレリ、音楽: ゲルト・バウマン
出演: ヴェダット・エリンチン、ラファエル・コスーリス、ファーリ・オーゲン・ヤルディム