吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ヒトラーの審判 アイヒマン、最期の告白

  「ハンナ・アーレント」つながりで劇場未公開の本作を紹介。  

 ドキュメンタリーだとばっかり思い込んでいたが、ドラマであった。見始めると意外と面白いのでつい引き込まれた。娯楽作だけあって、アイヒマンと愛人たちとのからみが何度も登場する。全裸の美女たちのシーンが続くと、「これって、真面目な反ナチ映画ですか?」と言いたくなるような

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 本映画の主人公はアイヒマンではなく、彼を取り調べた捜査官(イスラエルの警官)である。取調官の葛藤が描かれているため、単なるアイヒマン告発作になっていないところがいい。アイヒマンが言う。「わたしは君と同じく職務に忠実な警察官だった」と。イスラエルの警官はその言葉に言い返せない。ここが本作の真骨頂だ。アイヒマンを誰が責めることができるだろう。アイヒマンを告発する勇気のある人間がこの世にどれだけいるのだろう?

 

 「取り調べも裁判も生ぬるい、すぐに処刑してしまえ」というイスラエルの人々の怒号が渦巻く。取調べにあたった警官は、イスラエルの人々から裏切り者呼ばわりされ、近辺には危険が付きまとう。そこまでして取り調べたアイヒマンにはユダヤ人警官にとってどんな意味があったのだろう? 虚しさすら漂うラストシーンには、これが娯楽作を超えた思想を持っていると感じさせるものがある。 

 

 アイヒマンを演じたのがトーマス・クレッチマンというのは男前過ぎないかと思ったが、『アイヒマン調書』に掲載されている写真を見ると、若い頃のアイヒマンはクレッチマンにも似ている、なかなかの優男である。クレッチマンは「戦場のピアニスト」でブレイクして以来、ドイツ軍人を演じることが多くて、なんだか気の毒な気もする。(レンタルDVD

 

EICHMANN

100,イギリス/ハンガリー2007

監督:ロバート・ヤング,製作:カール・リチャーズ,脚本:スヌー・ウィルソン,音楽:リチャード・ハーヴェイ

出演:トーマス・クレッチマン,トロイ・ギャリティ,フランカ・ポテンテ,スティーヴン・フライ