吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

アルゴ

<2013.2.25追記>
 速報! アカデミー賞作品賞を受賞しました!

 年末年始怒涛の映画評マラソン何本書けるかシリーズ第2弾は、ベン・アフレックの手腕が見事に発揮された本作。わたしは先日の女子会で「来春のアカデミー賞受賞間違いなし!」と叫んだら、「いや、この作品は既に昨年度のアカデミー賞で無冠であり…」とのA記者の指摘に「なんでぇ〜」と無念の涙を呑んだのでありました。(→2013.2.25追記、どうやら昨年度のアカデミー賞の対象作ではなかったようですね。見事、今年のアカデミー賞を受賞しました。監督賞をベン・アフレックにあげてほしいが、それはダメだったようで、ノミネートすらされていないなんてちょっとおかしいと思うのだが) ベン・アフレックには劇場未公開の「ゴーン・ベイビー・ゴーン」という素晴らしい監督作品もあるので、ぜひDVDでご覧いただきたい。

 この映画は先月、長男Y太郎と一緒に映画館で鑑賞したのだが、見終わって、Yが「あー、疲れた。こんなしんどい映画はもうええわ。休憩したい。もっとのんびり見られるフランス映画がええわ〜」と言っていた。ほんとにその通り、最後まで緊張が途切れず、ぐいぐい引っ張るベン・アフレックの演出が素晴らしい。結末がわかっているのにこれほど手に汗握った映画は「アポロ13」以来ではないか。


CIAはこれまで数々の珍作戦を考案実行したことが暴露されているが、これはその中でももっともばかばかしくも真面目に遂行され、かつ成功した稀有な例ではなかろうか。それはイラン大使館の人質を救出するために偽の映画製作をでっち上げる、というものだ。題して「ハリウッド作戦」。タイトルの「アルゴ」は架空の映画のタイトルである。宇宙人が攻めてくる、というSFものらしいがその内容たるや実にばかげている。にもかかわらず、一流のプロデューサーが作戦参謀になり、「猿の惑星」のオスカー受賞美術担当者を巻き込んで大作戦を展開するのである。

 時は1979年11月14日。イラン革命直後のテヘランでは、アメリカに亡命したパーレビ国王の引渡しを求めて民衆がアメリカ大使館にデモをかけていた。ついにこの日、大使館は占拠され、大使館員52名が人質となった。この当時の記録フィルムを矢継ぎ早やに見せる演出がスピーディで見事だ。その記録映画の延長のまま、映画内の物語が始まる。どこまでが実写フィルムでどこからが創作フィルムなのかの閾もあやふやなほどにリアリティにあふれた映像が展開する。そうだ、この当時、イラン革命というニュースが世界中をかけめぐり、わたしも興奮してそのニュースを見ていたのを思い出す。テヘランの100万人デモの圧巻の様子が懐かしい。この人質事件のことはすっかり忘れていた。解決のために1年以上かかったことなどさらに記憶の隅にも残っていなかった。だから、人質の中から6人がこっそり逃げ出してカナダ大使館に匿われていたことなど初耳といってもいい。
 本作は、その6人をカナダ大使館から救出するCIAの作戦を再現した実録ものである。
 予告編ではかなりコミカルな映画のように宣伝されていたが、どうしてどうして、真面目なサスペンスではないか。お笑いはハリウッドのシーンのみ。さすがは映画人らしく、映画に対する愛と自虐ネタが笑わせてくれる。
 
 実話なのだから、それほど面白くできるはずがないと思うのが素人の浅はかさ。そもそも作戦そのものが荒唐無稽でアンビリーバブルなんだから、それだけでも十分面白い。しかもベン・アフレックは緩急自在で小道具にも凝った演出で見事にこれを娯楽作に仕上げてしまった。しかもこっそり社会派的な批判精神を潜り込ませている。最後の最後までハラハラさせて、観客の心拍数を上げまくった腕前に脱帽。役者としてはいささか凡庸だが、監督としては一流のベン、これからはずっと監督やっててほしい。
 

ARGO
120分、アメリカ、2012
製作・監督:ベン・アフレック、共同製作:グラント・ヘスロヴジョージ・クルーニー、製作総指揮:デヴィッド・クローワンズほか、脚本:クリス・テリオ、音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演: ベン・アフレックブライアン・クランストンアラン・アーキンジョン・グッドマン、ヴィクター・ガーバー、テイト・ドノヴァン