吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ヴァンパイア

 いかにも岩井俊二。脚本も監督も編集も音楽も全部自分でやっているのだから、それはもう岩井俊二ワールドに満ち満ちています。劇場から出てくる人たちを眺めて長男Y太郎が「いかにも岩井俊二を好きそうな人ばっかりやな」と言う。岩井俊二のファンって見た目でわかるのかしら?
 そのいかにも、というのはつまりは少女漫画のようなフワフワとして不定形な映像の甘ったるさと美しさだ。ほんとうにフワフワしているおばさんまで登場するから驚きです。全身に風船をつけているのですよね、これが。
 少女漫画のよう、と書いたが、そこに残酷な場面を平然と挿入するところがまた岩井俊二らしいといえようか。

 ちなみに、この映画の上映開始を待ちながらY太郎の顔を撮った写真をFacebookにアップしたら、史上最多の「いいね」クリックされたので、複雑な心境であります(笑)。


 物語の舞台はカナダ。全編英語で語られるカナダで映画である。日本人は岩井のミューズたる蒼井優が一人だけ登場するが、この配役には疑問がある。なぜ蒼井優を起用したのか、必然性が感じられなかった。蒼井の演技がよくないとかそういう意味ではなく、なんとなく無駄遣いのように感じるのだ。


 この物語の主人公であるヴァンパイアは高校の生物学教師。この映画が「こんな吸血鬼映画、今までなかった」と惹句されているのも当然で、彼は人間のまま「吸血」する若者だから。自殺願望者が集まるWeb掲示板で「一緒に死のう」と呼びかけ、若い女を集めては彼女らから血を抜き取り安楽死させてやる。その代わりに彼は抜いた血を飲むのだ。その行為は互いの欲望を満たす、ギブアンドテイクの関係といえるだろう。やがて彼は自殺願望をもつ一人の若い女と出会い、彼女に自分の正体を告白する…。

 あまりにも地味で淡々とした作品なので、つい途中で居眠りしてしまった。その寝ている間に何かしら重大な展開があったようだが、気がついたら若い男が殺人鬼になっている場面だったので、驚いて目が覚めた。後はいちおう最後まで起きていたが、結局のところ何がいいのたいのか、訴えてくるものがない映画だったので、見終わって1週間後には既にストーリーの細部はもちろん結末も忘れている、という有様。ただ、雰囲気だけが伝わってくる、そんな映画。そういう意味でも岩井作品らしい。孤独という共通点だけで惹かれあう若者達の淡々と物悲しく、うら寂しい物語。

 主人公の認知症の母親が弾くピアノ曲が美しい。サティの曲に似ているが岩井俊二のオリジナルなのか?

VAMPIRE
119分、日本/カナダ、2011
製作・監督・脚本・撮影・編集・音楽: 岩井俊二
出演:ケヴィン・ゼガーズ、ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、蒼井優アデレイド・クレメンス