吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

トータル・リコール

 先月の映画サービスデーに長男Y太郎と映画館をはしご。一本目のフィリップ・ガレル「灼熱の肌」よりずっと面白いじゃないですか。しかし、その日の2本目に観たので、途中で疲れて寝てしまい、最後のほうの反帝独立戦争を見ていない(悔)! ほんとは3本見るはずだったが、二人とも猛烈な寝不足であったので3本目は断念。


 本作のオリジナル作はとても面白かったという記憶があるが、印象に残っているのはシュワちゃんの鼻から記憶装置を引っ張りだした場面と、シャロン・ストーンの回し蹴りだけ。あとはミュータントたちの姿かしら。
 今回のリメイク版は役者が小粒になっている。シュワルツネッガー→コリン・ファレルシャロン・ストーン→ケイト・ベッキンセイルですからね。コリン・ファレルは凄味に欠けるし、ケイト・ベッキンセイルではシャロン・ストーンの悪魔的な色気に敵わない。しかしその分、美術とアクションは相当に進化したのではなかろうか。

 今回は火星に行かない。その代わり、下層労働者たちは地球の核を通り抜けてイギリスとオーストラリアを「通勤列車」で往復するのだ。人類が居住できる土地は世界にその二箇所のみが残った未来社会では、富裕層がイギリスに住み、貧困層がオーストラリアに住む。どちらも超過密都市であることに変わりないが、その雰囲気は随分違う。オーストラリアはまるで香港の九龍城かはたまた「ブレードランナー」か。地球の核をどうやって通り抜けるのかとても興味深いが、そのあたりの仕掛けは映画では種明かしされない。その代わり、重力が反転する瞬間の映像が秀逸だ。よく考えられていてここが面白かった。「2001年宇宙の旅」の宇宙船内で円周に沿って歩くシーンがあったのを思い出す。

 いくつかのSF映画で既視感のある未来都市、その未来都市でまたまた既視感のあるホバークラフトみたいなカーチェイス、高速エレベーターの隙間を縫って逃げ回るチェイスシーン、いずれもどこかで見たことがあるようなアクションシーンなのだが、非常に面白い。また、意外なことにケイト・ベッキンセイルはアクションができる女優だったのだ。彼女の鬼嫁豹変ぶりも素晴らしい。とにかく強いこと強いこと。こんなに驚異の運動能力と殺傷力を持った妻に執拗に追いかけられたらたまりません。美女が怖い顔をして執拗に追いかけてくる、という設定があそこまで悪夢のように恐ろしいとは知らなんだ。これは世の男たちの潜在的恐怖と願望を刺激するフロイト的映画ではなかろうか(笑)。

 植え込まれた偽の記憶とかアイデンティティの喪失と揺らぎといったテーマは1990年には斬新で面白かったが、昨今もう見飽きてしまったので、この映画では重要なテーマとはみなされていないようだ。オリジナル版のサスペンス的味付けやどんでん返しの面白さよりもひたすらアクションアクションアクションで責めまくった作品。美術も凝っていてわたしは満足。

TOTAL RECALL
118分、アメリカ、2012
監督: レン・ワイズマン、製作: ニール・H・モリッツ、トビー・ジャッフェ、製作総指揮: リック・キドニー、レン・ワイズマン、原作: フィリップ・K・ディック、脚本: カート・ウィマー、マーク・ボンバック、撮影: ポール・キャメロン、音楽: ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演: コリン・ファレル、ケイト・ベッキンセイル、ジェシカ・ビールブライアン・クランストンジョン・チョービル・ナイ