吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

白いリボン

 不思議に引き込まれていく、独特の暗さをもった作品。第一次世界大戦勃発直前のドイツの片田舎に起きる暴力の連鎖。モノクロの画面が陰鬱に展開する。

 うちのY太郎(21歳)が「ハネケの作品では一番いい」と評価していたように、実際、これまでのハネケの作品とは一線を画する作風だ。単に暗いとか底意地悪いとかいう次元を超えて引き込む力のある作品。とはいえ、謎はすっきりと解き明かされてはいないため、観客によっては「結末がわからん!」という不平不満が噴出しそうだ。明らかに見る者を選ぶ作品。謎解きサスペンス映画ではないので、「謎はすべて解決した。犯人はお前だ!」とすっきりしたい人は見ないほうがいい。

 タイトルの「白いリボン」が示すものは「純潔」。この純潔が示唆するもののおぞましさをこの映画は存分に描き出す。「純潔」を守るために犯罪に手を染める者たちは誰なのか。彼らがその後のドイツを作った大人たちの子ども時代なのだとしたら、ナチズムは一人ドイツだけのものではあるまい。ある種、どこの子どもにもありがちな潔癖症、正義感、異質なものへの嫌悪、排除の論理、冷酷な弱肉強食、といった子ども時代の暗さと暴力をこの映画は独特のタッチでじっくりと描き出す。
 このような「子ども時代」というのも近代の鬼子であろうか、とふとアリエス『<子供>の誕生』を思い出した。

 多くの謎が張り巡らされ、それらは明快な解答を与えられない。陰湿な欲望や他者を利用する者の醜さ、横暴、復讐、猜疑、大人も子どももどちらもが様々な悪夢を見る、それも白昼に。そのような時代に、真実に目をつぶろうとした者だけが「あれはなんだったのか」と過去を振り返る。この物語の語り手である年老いた教師はおそらく1945年の時点から過去を回想している。あの時代のあの村がその後のドイツを象徴しているのだ。彼自身が振り返って自らを律しているだろうか? 自らを反省的に眺めているだろうか? そうとは思えないラストシーンにこそ、本当の恐怖がある。(レンタルDVD)

DAS WEISSE BAND - EINE DEUTSCHE KINDERGESCHICHTE
144分、ドイツ/オーストリア/フランス/イタリア、2009
監督・脚本: ミヒャエル・ハネケ、製作: シュテファン・アルントほか
ナレーション: エルンスト・ヤコビ
出演: クリスティアン・フリーデル、レオニー・ベネシュ、ウルリッヒ・トゥクール、フィオン・ムーテルト