吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ダークナイト ライジング

 ノーラン監督のバットマン三部作、最終話の前に前2作を復習しておけばよかったと深く反省。これ、前作を覚えていないとなんもわかりませんよ〜!

 100点満点だった前作に比べると、こちらはすべての点において見劣りする。その思想もキャラクターも映像も、なによりもバットマンその人が。もちろん、この作品はこれだけでも充分普通の作品より上をいっているのだが、前作が完璧なすごさを見せた娯楽作だっただけに、あれを超えるのは難しかったようだ。いわば、生まれながらにハンディを背負った作品なのだ。気の毒ではある。

 ノーランの作品の素晴らしさは監督であるクリストファー・ノーランの手柄というよりは脚本を書いた弟のジョナサン・ノーランが偉いのだ、というのがうちの長男Y太郎の評価。「『メメント』の監督がここまですごい監督になるとは思わなかった」とYの言う。確かにそうだ、わたしもノーランは「メメント」の一発屋かと思っていた。だが、彼はそうではなかった。「メメント」以後の作品は次々にレベルアップしていき、目くるめく映像の酩酊を観客に味わわせてくれた。「ダークナイト」に至っては倫理学の教科書にしたいぐらいの素晴らしい作品に仕上がっていた。
 その後の作品は苦戦するだろうと予想したら案の定。まず、あのジョーカーに勝る悪役はいない。ヒース・レジャーが命懸けの渾身の演技を見せた、あの、震え上がるほどの悪人に比べればトム・ハーディのダークサイドぶりは物足りない。

 いっぽうで、映画全体の暗さは前作をしのぐ。まずバットマンその人が引きこもり。正体を知っているゴードン市警本部長も鬱々としている。執事のアルフレッドも主人と同調して陰鬱。はじけているのは女盗賊セリーナ・カイルのみ。いや実にこのセリーナ役のアン・ハサウェイがなかなか魅力的で、この作品の中では一番光っているのではないか。

 「ダークナイト」で善悪二元論の葛藤には答が出てしまった。つまり、答が出ない、という結論が。それ以上、屋上屋を重ねることは無理なのだ。決着のついた/つかない問題を再び俎上に乗せることは困難なので、別の路線を探すしかない。そこで本作には迷いが出た。これはこれで悪くないできなのに不満が残るのは期待値が高すぎるからだ。さらに続編を臭わせるラストだが、それはもう止めたほうがいい。

THE DARK KNIGHT RISES
164分、アメリカ、2012
監督:クリストファー・ノーラン、製作: エマ・トーマスほか、製作総指揮:ベンジャミン・メルニカーほか、脚本: ジョナサン・ノーラン,クリストファー・ノーラン、音楽:ハンス・ジマー
出演: クリスチャン・ベイルマイケル・ケインゲイリー・オールドマンアン・ハサウェイトム・ハーディマリオン・コティヤールジョセフ・ゴードン=レヴィットモーガン・フリーマン