吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ラム・ダイアリー

 タイトルどおり、ラム酒ばかり飲んだくれている新聞記者たちの物語。画面も常に酔っ払っているのでかなり疲れました。

 舞台は1960年ごろのプエルトリコ。米国系新聞社の記者として雇われるためにニューヨークからやってきたフリー記者のポール・ケンプ、しかしやたら飲んでばかりいて、いったいいつ仕事しているのやら? アメリカの植民地みたいなプエルトリコのリゾート開発で一儲けをたくらむ米国人実業家サンダーソンと知り合い、ペンの力で自分に都合のいい記事を書いてもらおうとするサンダーソンになにやかやと世話になる。ポールにとってはサンダーソンの財力も魅力だが、何よりもその美しい婚約者シュノーに一目ぼれしてしまう。叶わぬ恋に身を焦がすポールは、新聞社の同僚たちと毎日毎日毎日飲み倒す日々。新聞社は最低の記者ばかりでいつ倒産しても不思議はない、という状況。編集長兼社主のロッターマンは毎日怒鳴り倒している。


 ……という、自堕落で暑苦しくて酒臭くて根性が曲がっていて汚らしくてロクでもない連中ばかりが出てくる映画だけれど、意外に面白かった。同じ飲んだくれの映画でも「酔いどれ詩人になるまえに」よりはかなり面白く見ることができたのは、舞台が南米だからじゃないかと思う。美しい砂浜、海、ホテル、それに対比して地元民の暮らしは貧しく、悪徳アメリカ人たちが暴利を貪ろうとする様子もどことなく正義派ぶって描かれている。南米の歴史的・地理的再現が興味深かった、ということ。

 酔っ払い記者たちが飲んでいる強烈なラム酒はアルコール度数470度(!)てありえんやろ〜と笑いそうになるが、火炎放射器にもなるという代物。こういった、めちゃくちゃな描写がけっこうツボで笑えた。ポールたちが暮らすアパートの破格の汚さやぼろさかげんもリアリズムの宿みたいで面白かったし、地元の人々と喧嘩して車をボコボコに破壊された後の二人乗り(!)も爆笑。地元民をバカにしてはいけませんよ、天罰やでぇ。

 とはいえ、とにかくひたすら酔っ払ってばかりいる描写が延々続くとしまいには退屈してくる。おまけに美女シュノー役のアンバー・ハードが確かに綺麗だけれど品のない顔つきをしているのでわたしの好みではなく、新聞記者の話のはずがいったいいつ記事を書いているのかと(たまにはタイプライターを打っている姿が映るが)疑いのまなこを向けてしまい、さらにはあのサンダーソンって結局何者なのかもよくわからず、だんだんだれてきたので最後の最後に寝てしまった。ラストシーンを見ていない!! 何たるちあ! 誰か結末教えて! とTwitterで叫んだら、facebook経由でA沢E子さんから見事にラストシーンの詳細を教えてもらえました。ありがたいねぇ、ネットは。


 原作はジョニー・デップの友人であるハンター・S・トンプソンの未刊小説。トンプソンの自宅で眠っていた自伝的小説の原稿を発見したジョニー・デップがこの小説の出版と映画化を同時に提案し、実現にこぎつけたが、本人はその前に拳銃自殺してしまった、といういわきつきの作品。実際あんな生活を送っていた男なら拳銃自殺ぐらいしてもなんの不思議もない。

 1960年ごろのアメリカ合衆国と南米をめぐる国際政治の動きが物語の背景でチラ見できるのが個人的には受けた。ケネディニクソンの大統領選とか、キューバ危機の前哨戦を思わせるエピソードとか、いろいろ歴史的事件を小出しにしているところが現代史オタクには受けるだろう。

 新聞社の印刷工程が映る場面では、つい先日、毎日新聞大阪本社の社会見学をさせてもらったことを思い出してグッドタイミング。この見学記については後日アップの予定。

THE RUM DIARY
120分、2011、アメリカ
監督・脚本: ブルース・ロビンソン、製作: ジョニー・デップほか、原作: ハンター・S・トンプソン、音楽: クリストファー・ヤング
出演: ジョニー・デップアーロン・エッカート、マイケル・リスポリ、アンバー・ハードリチャード・ジェンキンスジョヴァンニ・リビシ