吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

フェア・ゲーム

 同じ事件を扱った「グリーン・ゾーン」が全然面白くなかったのに比べれば、こちらのほうが随分スリリングで興味深い。
 
 イラク戦争開戦時の口実は「大量破壊兵器の存在」だったが、それが嘘であることがばれたのは世界中が知っていること。この物語は、イラクが核兵器を開発しているという疑惑は根拠のないものと上司に報告したCIAの女性諜報員ヴァレリー・プレイムの手記を原作とする。彼女の報告を逆手に取ったブッシュ政権は開戦に突入するが、ヴァレリーの夫であるニジェール大使のジョー・ウィルソンが真相を暴露して政府を批判する。すると今度はブッシュ政権側がなんと、「ヴァレリーはCIAのスパイである」とリークして報復するという前代未聞の事態に発展した。

 この映画は事実に基づくだけに展開は地味な印象をぬぐえないのだが、とはいえ、CIAの工作員がどのように暗躍するかが描かれていて興味深い。ヴァレリー本人がどこまで本当のことを暴露したのかはわからないが、本作では政治劇のおもしろさよりも家庭の不和に重点が置かれているように見える。前半のスリルとスピード感溢れる権力抗争・政治の裏舞台の物語が、いつしか夫婦の葛藤や絆の話にシフトしていく。この夫婦の正義感や愛情は、正直いうと多少胡散臭さを感じる。なにか事がうまく運びすぎているのではないかという印象がぬぐえないからだ。しかしこの、「胡散臭いのでは」と観客が勘ぐってしまう点まで考慮に入れて作品を作っていたとしたら大したものだ。夫婦を演じたのがナオミ・ワッツショーン・ペンという芸達者な二人だから、安心して見ていられるし。

 この映画を見ていると、権力の思惑がからみあえば一人のスパイなど簡単に抹殺されてしまうという恐ろしさがひしひしと伝わってくる。しかし、元々そういう仕事に就いていたのはあなたでしょ、とヴァレリーに言いたくもなるのだが。(レンタルDVD)

 ※思い出したついでに「グリーン・ゾーン」の感想も書いておこう。翌日の記事へ続く。

FAIR GAME
108分、アメリカ、2010
監督:ダグ・リーマン、製作:ビル・ポーラッドほか、製作総指揮:ジェフ・スコールほか、原作:ジョセフ・ウィルソン、ヴァレリー・プレイム・ウィルソン、脚本:ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース、音楽:ジョン・パウエル
出演: ナオミ・ワッツショーン・ペンサム・シェパード、デヴィッド・アンドリュース