午前十時の映画祭にて。
こんな人情話、今時絶対に作れない。クリスマスの御伽噺として笑って泣いてしみじみする作品だが、これはまさに時代を反映している。大恐慌も戦争も乗り越え、戦勝したアメリカがこれからわが世の春を謳歌しようという時代にあって人々を鼓舞し、戦争の傷をも癒した作品なのだろう。
主人公が美男美女というハリウッドのお約束もきっちり守り、子役は皆可愛くて。天使はやぼったいお爺さんだけどそれも愛嬌で。貧しい人々のために行った善行はいずれ報われる、というありがたいお話にいまやどれだけのリアリティがあるだろう。まあ、それでもいいお話だったので心がほのぼのできた。隣席の中年女性は最後、ぐずぐずと泣いておられました。
ジェームズ・スチュアートが高校生の役ってそれは無理というもの。若い時代は別の役者を使うべきでしたな。
これはクリスマスの心温まる奇跡物語の嚆矢となった作品であろうか。以後、この手の作品がわんさかと作られるが、社会批判が込められてかつどこか理不尽さが残る結末には、御伽噺とはいえ、リアリティが残されている。
後半の暗いタッチはサスペンス映画の雰囲気があり、天使が登場してからの展開はコメディアスなのにジェームズ・スチュワートの鬼気迫る演技が怖い、という妙に分裂した演出ぶりが面白かった。
IT'S A WONDERFUL LIFE
130分、アメリカ、1946
製作・監督・脚本:フランク・キャプラ、原作:フィリップ・ヴァン・ドレン・スターン、共同脚本:フランセス・グッドリッチ、アルバート・ハケット、音楽:ディミトリ・ティオムキン
出演:ジェームズ・スチュワート、ドナ・リード、ライオネル・バリモア、ヘンリー・トラヴァース、トーマス・ミッチェル