吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

テルマエロマエ

 一ヵ月半も前に見た映画なので既に記憶が…。

 大ヒット漫画の実写映画化。原作の世界をよくぞうまく映画にしたものだと思う。
 ローマ人役を演じられる顔の濃い日本人役者がこれだけ揃っているのだから、顔の平たい族(日本人)役者ととても同じ民族とは言えまい。「日本は単一民族国家」論は虚偽幻想に過ぎないと立証した偉大な映画である。
 原作には女っけがなかったが、それでは娯楽映画としてはどうよ、と思ったのか製作陣、無理やりに日本の漫画家志望娘を登場させた。まあ、これもなかなか笑いを誘える導入であり、原作の雰囲気を壊さない程度には面白かった。なんといってもラテン語を一夜漬けでしゃべれるようになるというくだりのえーかげんさには笑った。「初級ラテン語入門」(大意)なんていう教科書まで見せる手の凝りようはよきかな。劇場内はけっこう笑いに満ちていたので、皆さん満足なさったのではないでしょうか。え? そうでもない?
 阿部寛が立派に古代ローマ人に見えるというのが最大のウリである本作は、まさに阿部の熱演にすべての見所がある。その大げさな真面目ぶりは他の出演者がみなえーかげんな役ばかりな中で立派に浮いている。いや、風呂だから、沈んでいる。芝居が時代がかかっているのは阿部寛だけではなくて、ハドリアヌス帝役の市村正親もしかり。さすがは舞台役者だけあって、映画なのに芝居が芝居がかっている。

 そうそう、阿部寛の熱演だけが見所ではなかった、古代ローマの壮大なセットも見ものです。これは大スクリーンで堪能すべきシーン。元々はTVドラマ「ローマ」のために作成されたというチネチッタ撮影所のセットをそのまま転用。この豪勢なセットを見るだけでも映画館のチケット代は回収できたようなものだ。
 最後に特筆すべきは劇場用パンフレット。600円でこの内容の濃さは絶対に買い。濃いのは役者の顔だけじゃなかったね。ロケ地の温泉場の紹介やら、日本の風呂文化の解説やら、古代ローマ史入門やら、読みどころ満載。

 というわけで、世間の評判の低さをものともせず、わたくしとしてはなかなかに満足の一作でありました。(元々期待していないという分も点数のうちか)

108分、2012、日本
監督:武内英樹、製作:亀山千広ほか、原作:ヤマザキマリ、脚本:武藤将吾、音楽:住友紀人
出演:阿部寛上戸彩北村一輝竹内力、宍戸開、勝矢、キムラ緑子、笹野高史、市村正親