吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

ルイーサ

 これは面白い。したたかに生きる老人達に喝采。

 定年を間近にして突然解雇された一人暮らしのルイーサはどうやって生活すればいいのか? ルイーサは墓地の受付係として働いていたのだが、経営者が代替わりし、経営方針が変わっていきなり馘首された。悪いことは重なるもので、ルイーサがダブルジョブとして働いていた有名女優のメイドの仕事までお払い箱になる。おまけに可愛がっていた猫が死ぬ。貯金もほとんどないルイーサは、猫の葬式も出せない。さあ困った。困ったルイーサが始めたことは、地下鉄の構内で物乞いをすることだった…。


 巻頭、実に手際よくスピード感あふれる演出でルイーサの規則正しい生活を映し出す。きちんと髪を結い、スーツに身を包んだルイーサがバスで出勤する。職場では墓地受付の事務所を丁寧に掃除し、メイドをしている女優の家でも家具をピカピカに磨き上げる。そんなきっちりしたルイーサも悪夢を見てうなされる。それはどうやら、若くして亡くなった娘と夫の夢のようだ。しかし、観客にルイーサの悲しい過去は詳しくは語られない。あくまでも観客はルイーサの過去を想像するしかない。


 ルイーサの矜持も卑下も悲しみも喜びも、実にリアルにこの映画は観客に伝えてくる。決して説明的な映像が多いわけではないのに的確に伝わってくるところが、監督の手腕なのだろう。物乞いに身を落としても、決してそのことで自尊心を傷つける必要などないのだ。最初こそいやいやながらであったルイーサも、いつしか仲間を見つけて、その支えあいの力で立ち直っていく。その過程が実に自然な流れで、貧しき人々の支えあいや優しさが痛快かつ胸に沁みる。傷ついた人々のなんと優しく暖かいことよ。


 それにしてもアルゼンチンには社会保障というものが存在しないのか、地下鉄になんと多くの物乞いがいることか。アルゼンチンといえばエビータ(エバ・ペロン)の国、軍事政権が続き、何度もクーデターが起きたすえに民政に移管して経済政策が成功したはずなのに。あまりにもひどい状況には暗澹たる思いがすると同時に、庶民のしたたかな営みとネットワークは行政の無能・機能不全をものともせず力を発揮していることを見て、力強さを感じる。国家など、ここでは無用の長物だ。(レンタルDVD)

LUISA
110分、アルゼンチン/スペイン、2008
監督:ゴンサロ・カルサーダ、製作:オラシオ・メンタスティほか、脚本: ロシオ・アスアガ
出演:レオノール・マンソ、ジャン・ピエール・レゲラス、エセル・ロホ、マルセロ・セレ